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ABL融資先の業況悪化 ・法的再生・破綻時における融資回収プロセスの概要

コラム

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DATE
2013年02月01日

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士 濱須 伸太郎 / ゴードン・ブラザーズ・ジャパン 藤川快之

 

  1. はじめに

近時、「ABLの導入によって債務者の業況把握が可能となる」としてABLを推進する論理がみられる。
確かにそのような重要な効果も結果的に付随するが、ことABLの普及・推進の観点からは十分な成果が得られていない感がある。融資先の業況を把握し適切に管理することは、担保の有無や種類に関わらず融資事業者にとって基本のはずであるが、「正しいABLにはモニタリングが重要である」という言葉が「ABLによってモニタリングができる」と因果関係が誤解されたようである。
また、借手サイドのニーズを考えると、「金融機関に業況を理解してもらうために動産担保を提供する」という借手企業はそもそも非常に少ないと思われる。
ABLの原点は、「担保や回収原資として従来は想定されていなかった動産を活用することによって貸手がとれるリスクが拡大する」ことであり、その結果生じる信用創造機能により、最終的に借手企業も恩恵を受けるのである。
筆者(藤川)の金融機関との多数の帯同営業経験に基づけば、この原点を意識している金融機関は、従来融資対象外であった企業(いわゆる「非正常先」など)に対する融資や、既存融資先への与信供与額の拡大、長期与信の供与、約定返済額の適正化、LBOファイナンスへの応用など、様々な付加価値のある金融スキームの提供に成功している。本稿では、前記に鑑み、ABLの与信保全・回収について、紙幅の都合で概要のみであるが、実務と法律の両面から述べたい(対象担保が「在庫」または「機械設備」等の集合動産であることを想定し、「債権」については割愛する)。

 

  1. 融資先の業況が悪化した場合の対応

1 融資先の再生支援
融資先の業況が悪化してきた際(期限の利益喪失時事由が発生している場合を含む)は、金融機関は、担保換価による回収の可能性も視野に入れつつ、換価を避けながら融資先の再生支援を優先することが通常であろう。
なぜなら、融資先の他の取引先や雇用を通じた地域経済への影響等を考慮するという金融機関の社会的意義に加え、担保の換価自体からは利益が生まれず、かつ事業の終了によって将来の金利収益源が消失してしまうという理由で経済的にも一定の合理性があるからである。
多くの企業は業況が悪化しても滞留在庫や不採算事業を温存する意向が働くが、ABLは、事業継続に必須である在庫等を担保としており、業況悪化時には不動産担保と同等またはそれ以上の牽制力を発揮することが可能となる。
このことから、金融機関は融資先が法的再生手続や法的破綻処理に移行せざるを得ない事態に至る前に、滞留在庫や不採算事業の現金化(税務上損金が発生することによる税務メリットも含む)による返済原資と運転資金の捻出による当面の資金繰り確保、その後の収益力の強化について指導力を発揮する機会があろうこれら収益貢献に乏しく現金化可能な資産は、評価・換価専門会社等による動産評価・動産コンサルティングによって明らかにすることができる。
具体的には、①各資産カテゴリーごとの回転率や収益率を基にした貢献度分析、②在庫の仕入年月(エイジング)分析による滞留在庫の特定、③それら滞留在庫を現金化した時の損益ならびにキャッシュフローへの影響分析、④滞留在庫や不採算事業を撤退した場合の売上・粗利益・販管費への影響分析等を組み合わせたコンサルティングが行われている(補足であるが、斯種コンサルティングは、経営の課題の根幹が在庫である企業に対しては、動産担保の有無に関わらず有効なソリューションとなる)。

2 債権保全の準備

融資先の業況悪化段階で、再生支援と並行して貸手たる金融機関が意識すべきことは、融資先が仮に法的整理手続に入った場合でも保全が十分な状態を維持することであり、財務制限条項抵触等を機に、段階的に融資額の回収あるいは追加担保の徴求が必要となろう。
なお、この段階では、融資先の事業継続を支援することに合理性があるため、短期の回収最大化よりも、弁済額と融資先の必要運転資金の折り合いをうまくつけることが重要である。
あわせて、各種モニタリング(担保動産の評価、実査による動産確認、動産の棚卸、売上・仕入・資金繰り確認、倉庫保管料延滞による商事留置権や仕入先による在庫所有権留保等の譲渡担保権に優先する債権・権利の存在調査等)の頻度を上げることになる。
紙幅の都合で割愛するが、融資先が法的手続外もしくは法的再生手続内で再生を志向する中で、期限の利益喪失事由等をもって融資先の意向に反して密行的に担保動産を換価するプロセスも、金融機関は検討しておく必要がある。担保の換価が必要な事態になってから準備しても十分な効果が得られにくい点が、不動産担保融資とは大きく異なる。

3 契約上の権利の確保

法的観点からは、前記のような管理を有効に機能させるため、①融資契約書(銀行取引契約書、当座貸越契約書、金銭消費貸借契約書、シンジケートローン契約書等)、②担保権設定契約書(集合動産譲渡担保設定契約書等)、③その他の個別案件ごとに必要となる契約について、内容を明確にしておくことが重要である。
とくに③においては、ABL実行中におけるモニタリングのための様々な規定として、たとえば、専用の管理口座を融資金融機関に開設し対象事業から生じるキャッシュフローは同口座において受領すべきこと、融資先は定期的に対象事業の状況に関する報告書を融資金融機関に対して提出すべきこと、融資先は融資金融機関による定期的な現地調査に服すべきこと、担保価値が減少したときに段階的な返済義務や追加担保提供義務を課すこと等が必要である。
ただし、実際に追加担保の提供を受ける場合などは、法的倒産手続に入った時点で否認されるリスクがないかなどに十分注意しなければならない。

 

  1. 法的再生手続に移行した場合の対応

1 民事再生の場合

⑴ 選択肢

倒産手続においては、実務上、譲渡担保権は別除権として取り扱われており(注1)、これは民事再生手続においても同様である。
別除権は再生手続外で行使できるため、譲渡担保権者たる金融機関は大きく分けて二つの選択肢、すなわち①譲渡担保権を実行せず債務者の再生に協力し回収を図るか、または②譲渡担保権をみずから実行し回収を図るかのいずれかを選択することになる。
かかる選択にあたっては債務者の再生可能性、弁済可能性、担保物売却の難易度等を総合考慮することとなる。

⑵ 担保権を実行しない場合

担保権を実行しない場合、譲渡担保権者たる金融機関は債務者代理人と協議を行い別除権協定を締結することになる。
別除権協定においては、債務者の再生に配慮する形で主として、弁済額、弁済方法、当該弁済が終わった場合には譲渡担保権を外すこと等について規定することになる。
事業を継続していく中で担保動産を販売した売上金から、毎月一定金額を回収するようなパターンが多い。
ここ二、三年の民事再生における動産担保の取扱いをみると、債権者、債務者代理人共に事例・経験を重ね、別除権協定による債務者の再生と債権者の融資回収をうまく両立させるケースが増えていると感じられるが、とくに弁済額すなわち担保物の評価については粘り強い交渉が必要になるケースが多い。
したがって、かかる事態に至る前に動産評価を取得し、将来あり得る換価について動産換価の専門会社と協議しておくなどの理論武装が、債務者代理人との交渉を対等に進めるために重要となる(換価見込額の感覚をまったく持っていないと、対象動産の情報を独占する債務者側の「言い値」の弁済額に同意せざるを得ない)。
なお、民事再生手続において、集合動産譲渡担保の担保物が事業の一部として事業譲渡されるケースも存在する。
この場合も、基本的には、担保抹消と売買代金の支払いを同時に行うことが多いため、譲渡担保権者たる金融機関は債務者代理人と事前に協議を行い、弁済額、事業譲渡による売却代金からの弁済と同時に担保権を消滅させる旨の合意を行うことが多いと思われる(注2)。

⑶ 担保権を実行する場合

① 私的実行の概略譲渡担保権者は、別除権者として再生手続外で担保権を実行することができる(民 事再生法五三条)。
譲渡担保権は法定担保 権ではないため動産競売等の手続は用いら れず、いわゆる私的実行を行うことにな る。
私的実行により譲渡担保権の担保物を処 分する方法としては、いわゆる帰属清算型 (譲渡担保権者が担保物の所有権を取得し、 担保物の価額から被担保債権額を差し引 き、余剰があれば債務者に返還する方式) と処分清算型(譲渡担保権者が担保物を換 価し、その代金からまず被担保債権額を受 け取り、余剰があれば債務者に返還する方 式)の二種類が存在する。
契約上はいずれ の処分も採用できる旨定めていることが多 い。 私的実行を行うためには、担保物の引渡 しを受けることが必要となる。
この点、債 務者が協力的な場合には任意の引渡しを受 けたうえで、後述する換価手続を取ること になる。
しかしながら、担保権の実行をせ ざるを得ないような場合とは、通常、債務 者代理人である弁護士との別除権協定の締 結見込みがないような場合であり、債務者 側の協力が得られず任意の引渡しを期待で きないものと思われる。
そのような場合には、担保物保全のための占有移転禁止およ び処分禁止の仮処分の申立てを行い、発令 を受けた後に動産譲渡担保の実行通知の交 付を行うと共に保全執行に取り掛かり担保 物を執行官保管とする、それでも任意の引 渡しを債務者が拒むような場合には動産引 渡し請求訴訟を提起する、などの一連の法 的手続を取ることを検討する必要が出てく る。
このような担保物の引き渡しを受ける 場合には、動産を保全するための倉庫の確 保、運送業者の手配、執行官とのスケジュ ールの調整等、種々の準備が必要となり、 弁護士を含めた関係者と入念な事前協議を 行う必要がある。 また、民事再生法は担保権の実行手続の 中止命令の制度を採用しており、当該中止 命令に関する民事再生法三一条は譲渡担保 権のような非典型担保にも類推適用される と解するのが多数説であることから(注 3)、この中止命令が出された場合には担 保権の実行をすることはできなくなる。

② 動産価値把握の重要性と換価の具体 的方法 いずれにせよ、民事再生手続申立以降 は、再生を目指す債務者と緊張関係に入る こともあり、換価対象動産を査定する十分 な時間・情報(在庫データや従業員からの 情報等)が得難くなる。
そのため、対象動 産の本来の価値を最大限生かして融資回収 を行うためには、融資実行時・期中管理の 段階から、動産の価値を把握しておくこと が重要である。
換価においては、換価専門会社が譲渡担 保権者からの委託を受け成功報酬手数料に よって動産を売却する方式と、対象動産を 買い取る方式がある。前者では、換価専門 会社が、一般的には動産の売却額に比例す る換価手数料を得る方式で行い、ある程度の時間をかけながら換価額を最大化すべく 行動するため、一般的には後者に比べて金 融機関の回収額が大きくなるとされてい る。
なお、以前に当該先の評価を行った評 価会社が換価業務も手掛ける場合、換価手 数料の水準等について評価書に記載がある ことが一般的である。後者は、換価専門会 社が動産の価値に関するリスクを引き受け ることから、買取金額はリスクを織り込む 分だけ低くなることもあるが、金融機関の メリットとして、短期間で回収額を確定できることが挙げられる。

⑷ 固定化の問題

集合動産譲渡担保によるABLの融資先 が民事再生手続の申立てをした場合に問題 となるのが、いわゆる固定化の問題であ る。
固定化とは、そもそも法令や判例上の 概念ではないためその定義についても諸説 あるが、基本的には、集合動産譲渡担保や 集合債権譲渡担保の担保目的物が確定し、 これにより担保設定者は以後に当該担保物 を自由に処分することはできなくなる。
一 方で、譲渡担保権の効力は固定化時点に存 在する動産や債権のみに限定され倒産手続 開始後に取得された動産や債権には及ばな くなる。
この固定化が契約上定められている固定 化事由が発生した場合に生じることについ ては、争いがない。問題は、固定化事由が 発生していないにもかかわらず、倒産手続 が開始したことのみをもって、集合物譲渡 担保に固定化が発生すると考えるべきか否 かである。
この点、民事再生手続の開始によって固 定化が当然に生じるかについては判例・通 説がなく、大きく分けて二つの有力な学説 が存在する。
一つは再生手続開始によって当然に固定化が生じるとする説である(便 宜上、「開始時説」という)(注4)。
開始時 説によると、再生手続開始によって固定化 が当然に生じる結果、理論上、再生手続開 始により債務者が担保物の処分権限を失っ てしまい事業再生が成り立たなくなる可能 性があるという問題点などが指摘されてい る。
もう一つの有力説は、再生手続開始に よっても当然に固定化は生じず譲渡担保権 者による担保実行通知がなされて初めて固 定化が生じるとする説(便宜上、「実行時 説」という)である(注5)。
実行時説に よると、とくに集合債権譲渡担保の場合 に、債務者のスポンサーの融資を原資とし て取得された債権についても譲渡担保権の 効力が及ぶ理論上の余地があり、DIPフ ァイナンスの実行を妨げる可能性があると いう問題点などが指摘されている(注6)。
この理論上の問題を解決するためには、判 例や学説のさらなる蓄積を待つしかない。
この固定化の問題は、実務的には、前記 のような理論上の問題があることを考慮し つつ、最終的に当事者の合意により解決す るほかなく、また合意による解決に成功す るケースが多いと思われる。
すなわち、債 務者の立場からすれば事業継続のためには 集合動産譲渡担保の担保物の処分権限が明 確に認められることが必要不可欠であり、 一方で、譲渡担保権者たる金融機関の立場 からしても債務者の事業から生まれる収益 から回収を図ったほうが相対的に多額の回 収を見込めることが多いため、いわゆる別 除権協定を締結することになるが、その中 で担保物の処分権限や価額に関する合意が なされれば前記のような固定化により生じ る理論上の問題は解決する。
合意を形成す るにあたりとくに問題となるのは担保物の 価額をどのように判断するかであるが、実務上は、会社更生法において更生担保権の 価額の基準時が更生手続開始時点とされて いること(会社更生法二条一〇項)との均 衡や、再生手続開始後のどの時点の担保物 の価額を採用するのが妥当かにつき明確な 基準が必要であることなどから、再生手続 開始時点の担保物の価額を基準とせざるを 得ないことが多いと思われる。

⑸ 再生手続中の会社に対する融資を行 う場合

民事再生手続開始の申立て後、再生会社は事業のための資金を必要とする場合が多 く、スポンサーとなる事業会社やノンバン ク、場合によっては銀行がこれらの再生手 続中の会社にDIPファイナンスをするこ とがあるが、このDIPファイナンスにA BLの手法を用いることがある。そこで、 少し外れるが、民事再生手続中の会社に対 して新たにABLを行う場合について触れ ておく。
民事再生中の会社に対する貸付けによる DIPファイナンスは、法律上は共益債権 となり(民事再生法一一九条五号)、再生 手続によらずに随時弁済され、また再生債 権に優先することになる(民事再生法一二 一条一項および二項)。もっとも、再生計 画認可決定前までは金銭の借入や担保の設 定は監督委員の同意事項に指定されるのが 通例である(民事再生法五四条二項)。
そ のため、契約書上の融資実行の停止条件と して、これらにつき監督委員の同意を得る ことが必要となる(ただし、再生手続開始 の申立て後、開始決定前に融資を実行する 場合には共益債権化についての監督委員か らの承認も必須である(民事再生法一二〇 条二項))。
その他、契約書上、債務者の財 務状況についての表明保証を受けることや、多くのABL契約で設けられている財 産状況・売上状況の定期的な報告義務、現 地調査に服する義務等を設けることも必要 となる。
また、DIPファイナンスを行う前から 既存のABLが存在する場合には注意が必 要である。
すなわち、前記の固定化の議論 において見たとおり、固定化について実行 時説が採用される場合は新たな融資を元に 取得した動産や債権についても集合物動産 譲渡担保が及ぶ可能性があるため、DIP ファイナンスにABLを用いる場合には、 実行の前あるいは同時に従前のABLの担 保抹消をさせておくことが重要である。
仮 に、従前のABLが別除権協定の形で残っ ていく場合には、従前のABLの担保物と 新しいDIPファイナンスの担保物が競合 しないように細心の注意を払う必要があ る。

 

2 会社更生の場合

会社更生の場合、譲渡担保権は更生担保 権に準じて取り扱われる(注7)。
更生担 保権とは、更生計画の定めるところによら なければ弁済を受けることができない権利 である(会社更生法四七条)。
したがって、 会社更生の場合、破産手続や民事再生手続 と異なり、譲渡担保権者は更生担保権を私 的実行する等の方法により回収することは できないことになる。
譲渡担保権者たる金融機関としては、基 本的に、更生担保権者の届出を行ったうえ で(会社更生法一三八項二項)、担保権の 目的である財産の価額について管財人と協 議、交渉を行う。
また、民事再生の場合と 異なり、更生担保権の支払いが更生計画に よることになるため、更生計画の内容に関 する協議、交渉を管財人と行うことも民事再生の場合と比べてもより重要となる。
な お、更生担保権の価額は「更生手続開始の 時における時価」を基準として判断される (会社更生法二条一〇項)。

 

  1.  融資先の破綻時の債権回収

1 破産手続における集合物動産譲渡担保の私的実行

破産手続においても、再生手続と同様、譲渡担保権は別除権(破産法六五条)とし て取り扱われているため譲渡担保権者はこ れを破産手続外で担保実行することができ る。
具体的な実行方法としては、譲渡担保 権は非典型担保であるため、私的実行によ ることになる。
また、譲渡担保権には、前記のとおり帰 属清算型と処分清算型の二種類があるが、 破産管財人による協力が期待できる破産手 続においては処分清算型の処理が採用され ることが多いと思われる。
私的実行にあたって、譲渡担保権者たる 金融機関は、まず管財人が担保権の存在を 認識せずに処分することを防ぐべく、早々 に管財人あるいは申立代理人弁護士に連絡 を行うことが望ましい。
また、私的実行に は担保物の引渡し等において破産管財人の 協力が不可欠であるが、破産管財人にはこ れに積極的に協力する義務はないと解され ている。
そこで、実務としては、破産管財 人は私的実行に協力し、代わりに譲渡担保 権者は担保物の処分価格の一部を破産財団 に組み入れるという内容の協定を破産管財 人との間で締結することが多い。
具体的な換価は、譲渡担保権者たる金融 機関が外部の動産評価を専門に行う会社に依頼して行うことが多い。
金融機関が、破 産管財人との間により良い協力関係を築 き、融資回収の最大化を目指すために、換 価専門会社が譲渡担保動産以外の財団資産 の換価・処分等も請け負い、破産管財人に よる破産事件全体の進捗を支援するといっ た提案が有効な場合もある。
民事再生の場 合ほどではないが、破産申立以降は、査定 の時間・情報が得難いことが多いため、融 資実行時・期中管理時の対象動産の評価等 の重要性は前述のとおりである。
また、換 価方式も民事再生の場合と同様である。 換価後は、処分価格の一部は協定に基づ き破産管財人に引渡し、その余は債権の回 収へと充てる。不足分については、破産債権として破産財団より配当を受けることに なる。

2 破産手続における集合物動産 譲渡担保の破産管財人による 換価

破産管財人による換価がなされる場合、 譲渡担保権者は破産管財人との間で別除権 の受戻しに関する合意をし、その中で売却 代金の一部を破産財団に組み入れることを 許容するのが実務上一般的である。換価後 は、協定に基づき、売却代金の一部が破産 財団に組み入れられ、その余は譲渡担保権 者へ引き渡され、不足分については、破産 債権として破産財団より配当を受けること になる。

 

  1.  業況悪化時における担保動産の価値の変動について

以上、業況悪化時以降の債権者が取り得 る行動について概要を述べたが、いずれの 段階においても重要となる注意点として、 貸手にとっての最終的な回収原資である担保動産の価値の変動についての傾向を補足 したい。
前述のとおり、業況悪化局面に入ったと きに借手企業にとって望ましい方向は、貸 手の指導や賛同のもと、滞留在庫や不採算 事業を現金化することで短期の資金繰りと 中長期の収益性改善を両立させることであ るが、実際には不良資産を温存しながら優 良資産を優先して売却し、資金繰りを維持 しようとする会社が少なくない。
これは、 借手企業として、金融機関等の支援姿勢の変化に対する不安から、損益計算書上の損 失計上を避けたいという意向が働く結果で あるとみられる。
一般的に、集合動産の換価価値には、た とえば全体の三割の在庫が七割の価値を占 める、といった偏りがみられる。
したがっ て、前記のような借手の行動を放置する と、担保動産の価値が貸手の想定以上に加 速度的に減少するという事態があり得る。
担保動産の絶え間ないモニタリングが重 要なのはもちろんのこと、場合によって は、 「担保価値を毀損する行為は許容できな いが、必要なリストラクチャリングで発生 する一時的な損失の計上は許容できる」と いった支援方針を融資先と改めて明確に共 有することが必要となる。このことによっ て、融資先が、金融機関の望む情報開示や 事業リストラクチャリングに前向きに取り 組めることに繋がり、結果として融資先の 再生支援と保全確保が両立する可能性が高 くなると思われる。

(注1)蕪山厳・最高裁判所判例解説民事篇 昭和四一年度六〇四頁参照。
(注2)なお、集合動産譲渡担保の目的物が 事業譲渡された場合に譲渡担保の効力が事 業譲受人に及ぶかについては判例・通説が現時点では存在しない。この点、否定的な 見解として伊藤達哉「民事再生手続におけ る流動資産譲渡担保の担保価値維持義務」 事業再生と債権管理一三一号一七〇頁等が ある。
(注3)才口千晴=伊藤眞監修『新注釈民事 再生法〔第二版〕上巻』一五一頁(金融財 政事情研究会)などがある。
(注4)道垣内弘人『担保物権法〔第三版〕』 三四〇頁(有斐閣)など。
(注5)伊藤眞『破産法・民事再生法〔第二 版〕』七〇五頁(有斐閣)など。
(注6)ただし、新たな融資を原資として取 得した債権については、譲渡担保契約の趣 旨から、譲渡担保権の効力を及ばないよう にするべきとする見解として、西岡清一郎 ほか編『会社更生の実務〔上〕』二六七頁 (金融財政事情研究会)などがある。
(注7)蕪山・前掲(注1)六〇四頁。 (はます しんたろう/ふじかわ よしゆき)