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ブランドの価値について考え直す ~アートとサイエンスの融合~

コラム

トップページナレッジブランドの価値について考え直す ~アートとサイエンスの融合~

DATE
2014年07月31日

 ゴードン・ブラザーズ・グループ シニア・マネージング・ディレクター ラファエル・クロッツ

Re-thinking Brand Valuations ”Art Meets Science” (原文)

By Rafael Klotz, Featured in the May 2014 Issue of The Secured Lender

 

ABLの担保として、「ブランド」が定着しはじめている。ブランドは、これまで有形資産の補足程度としか見なされなかったが、現在は多くのローンにおいて主要な担保となりはじめた。これは、劣後債権者がそれまで一般的ではなかった担保資産の優先権を持つことで、債務者に対して高い流動資金を提供することができるからだ。そして、その結果、ブランド価値はこれまでの会計目的での利用(減損テスト、取得原価配分(PPA=Purchase Price Allocation))を大きく超え、レンダーの実際の担保価値と保全の検証のための主たる評価としての領域に入ってきた。

 

ブランドの評価手法として、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチまたはロイヤリティ免除アプローチが挙げられるが、いずれもその企業の財務実績、現状や見通しによって価値が評価される。しかし、ブランドがローンの主な担保となる場合には、表面的な査定だけではなく、より深堀りした評価が必要とされる。

 

一企業の財務状況、経営状況、売上の実績と今後の見通しに関する詳細な審査に加えて、ブランドの買手が分析するであろう要素に着目する必要がある。その理由として、評価がレンダーに対して答えるべき最も重要な質問は、

“現状のローンからのエグジットが必要となった場合に、ブランドを取得する企業が支払う対価はいくらなのか?”ということだからだ。ブランドの総合的な評価を行うためには、エクセルシートに数字を打ち込むだけではできず、この質問にも答えられない。

 

サイエンスだけでは不十分

ブランドの真価を分析するには、DCF法による将来収益やEBITDA倍率等を単に算出するだけでは足りない。DCF法では、収支計画、割引率や期間成長率等の正確な見通しにより算出され、一つの項目が少しでも外れているとブランド評価は大きくぶれてしまう。正確な分析とDCF法アナリシスを行うには、的確なデータを入手して用い、その結果を実社会に当てはめることが鍵となるのだ。

 

評価結果の正確さを確認するためには、可能であれば、直近の前例と比べることが有効だが、事例比較分析を以ってしても、充分とはいえない。ブランドは、個々において特徴があることに加え、タイミングの変化に伴い価値のポテンシャルが異なるからだ。また、その業界自体が過小/過剰評価されている場合もあり、総合分析をミスリードしてしまうことがある。

 

実際には、ブランド価値は以下の要因に大きく依存する;経済環境、換金性、消費者の好みや資金調達の可能性、そして一番大切なのは、そのブランドを買収する可能性がある潜在的買手の数や種類だ。例えば、10年程前には、トレードマーク・ライセンスを目的としてブランドを買収する企業は皆無であった。しかし今日、そうした買収は増え、確立されてきており、戦略的買収やPEファンドと比べてもブランド買収は確実に存在感を表しはじめている。

 

詳細な定量分析はもちろん大切だ。しかし、正確な価値は、定量的分析に定性的要素を加え、レンダーに対し数式で導いた評価だけではなく、担保処分をした場合を想定した包括的な根拠も示すことが必要である。的確にブランド価値を評価するには“サイエンス”だけでなく“アート”の要素も同等であることを理解することが不可欠になる。いずれにしても財務諸表の内容に加えて、価値を算定するためにアナリストが包括的な業界情報を取得し解釈する必要があるのだから。

 

 

アーティストの手腕

ブランドの定性的な分析を行うには、まず消費者のブランドに対する認知度や親近感を的確に理解することからはじまる。また、現状及び今後の流通チャネル、地理的集中や拡大の機会等も精査する必要がある。ブランドの歴史、視認性、信頼性、市場トレンドや、消費者からの評判等も精査すべき要素だ。

 

また、ブランドが他ビジネスの競争力を高めたり、ソリューションの一助となりえるかということにも着目しなければならない。例えば、ロイヤリティを支払ってそのブランドを使いたいライセンシーは誰なのか。どのくらいのロイヤリティ率であれば妥当なのか。卸売業へのライセンス方式なのか、それとも大手小売企業と直接ライセンス提携の方が良いのか。店舗で代表となるブランドなのか、それとも第三者の小売業者を通じた販売に向いているブランドなのか。そのブランドには通信販売など消費者に直接販売するビジネスが存在するかどうか。

 

最後に、ディストレス状況での売却(または秩序だった売却でも、業況の悪化があった場合)、さらには垂直統合型(製造販売)の事業モデルからライセンス事業、またはその他の構造へ移行した場合、売上の中断が予想されるため、ブランド価値に与えうるネガティブインパクトについても軽視はできない。

 

また、ブランドの分析において、各分野の専門家との協業関係も築いておきたい。消費者に関連する不明点にはマーチャントに、ブランド取得企業に関する現状及び今後の状況についてはM&A専門家に、ロイヤリティ分析の精査に関してはライセンシングの専門家に助言を求めたい。

 

終わりに

ブランドを担保目的とした評価において、特にブランドがローンの主たる担保である場合には、有形資産の評価よりもはるかに大きい評価リスクを背負うことになる。それは、無形であるということの性質と様々なマーケットの要因がブランド評価に影響するため、担保権者であるレンダーからリスクを完全に取り除くということが不可能だからだ。

しかしながら、ブランド取得企業の思考プロセスを熟慮し、定量的・定性的両方の要素を鑑みた評価に基づいてコンサルティングをすることにより、レンダーのリスクに対する受容度を高めることができる。“サイエンス”で算出した結果に“アート”である解釈を通してのみ、ブランド評価の的確な仮定を導き、自信を持って無形資産に対して貸し付けを行うことができるのである。