MENU

我が国における機械設備評価需要の拡大と上級資産評価士(ASA)の役割

コラム

トップページナレッジ我が国における機械設備評価需要の拡大と上級資産評価士(ASA)の役割

DATE
2014年12月26日

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン アプレーザル部 部長  野田 慧 (ASA:上級資産評価士)

 

機械設備評価の重要性の高まりと評価人の不足

我が国における機械設備評価は資金調達、財産評定、M&A、パーチェス・プライス・アロケーション(PPA)等を目的として様々な用途で活用されている。特に会計目的の評価では、コンバージェンスの流れの中で、減損会計や企業結合会計の導入、更には国際財務報告基準(IFRS)の任意適用等、会計における公正価値評価の領域が広がっており、機械設備の公正価値評価の重要性が高まりつつある。

しかしながら、国内では機械設備評価に関する公的な資格制度が無く、機械設備を適正に評価できる評価人が不足していることから、早急な機械設備評価のインフラ整備が期待されている。また、機械設備の評価基準は、日本で特に統一された基準がない一方、国際的には国際評価基準審議会(IVSC)が機械設備を含む多様な資産に関する国際評価基準(IVS)を策定する潮流にあり、我が国における機械設備評価もこうしたグローバルスタンダードに対応していく必要がでてきている。

 

欧米諸国における機械設備評価の担い手

機械設備評価で先行する欧米諸国では、不動産の評価を不動産鑑定士に委託するように機械設備の評価を米国鑑定士協会(American Society of Appraisers)、あるいは英国王立チャータード・サベイヤーズ協会(RICS)といった権威のある団体が認める資格保有者(上級資産評価士(Accredited Senior Appraiser、以下ASA)等)に委託することが一般的となっており、日本の製造業が数多く進出しているアジア諸国においてもASAは弊社を含むグローバルアプレーザルファームや4大会計事務所では広く認知・取得されつつある。

 

日本でも上級資産評価士(ASA)の育成が始まった

企業会計基準の時価主義への移行や動産担保融資の普及促進を背景に我が国においても機械設備の評価人の育成が始まっている。上述した米国鑑定士協会が認定するASAという資格はこれまで米国や先行する諸外国で研修を受け取得する必要があったが、2011年より国内の教育団体日本資産評価士協会(JaSIA)が米国鑑定士協会より委託を受け、ASA資格の取得に向けた教育・研修プログラムの提供を開始しており、国内での資格取得が可能となった。ASA資格を取得するには、①機械設備の4つ講座ME201-204の受講及び各講座の試験に合格する事、②年間2,000時間ベースで5年以上の実務経験を有する事、③実際のレポート審査等が要求される。また、ASA取得後も継続教育が義務付けられており、ASA資格保有者のレベル維持・向上を可能としている。

 

評価経験豊富な有資格者に委託すべき

機械設備の場合、会計上の償却速度が実際の機械設備の価値の劣化を反映していないことが往々にしてある。そのため、機械設備の経済価値を適正に評価した結果、償却済の機械設備から埋蔵金のように価値が見いだされることも珍しくない。機械設備を評価することで、償却が進んだ機械を担保に資金調達が可能となったり、PPAの際に機械設備を適切に時価評価した結果、のれんを圧縮できたり、とさまざまなメリットがある。しかし、その評価がグローバルで確立している信頼性のある評価メソドロジーに則ったものでない場合、資金調達において金融機関に対する信用力・説明力が不足するものとなったり、のれんの圧縮について監査法人、ひいては投資家へのアカウンタビリティを果たすに堪えうる裏付け証拠の具備といった本来の目的が果たせなくなる可能性がある。委託者が安心して評価を委託するには、評価者が①国際的に通用する権威ある資格・称号(ASA・RICS等)を有していること、②機械設備評価の実績が豊富であること、の両方を満たしているかを選定基準とすることが推奨される。

 


 

ASA(American Society of Appraisers 米国鑑定士協会)

ASAは米国の首都ワシントンに本部を持ち、1936年に創設された米国の最も古い歴史を有する鑑定教育・資格の業界自主団体で、1987年の米国鑑定財団(The Appraisal Foundation/TAF※)の創設メンバー(8団体)を主導。現在不動産、動産、機械・設備、事業(知的財産を含む)、美術品、宝石等それぞれの専門分野での評価に関する教育と資格認定を提供している。 動産、機械・設備、事業評価の分野に於いては特に高い権威と信用力を誇っており、ASAの鑑定教育・資格は、北米に加え、欧州(東欧を含む)、南米、アフリカ、中国、その他アジア諸国、オセアニア等にて広く受け入られ、これらの国々における評価のスタンダードとなっている。 特に機械設備の分野では、ASAは、世界で唯一国際的にも認知される評価士の認証を与えている機関である。また、ASAは現在IFRSに対応したIVSの策定作業についても、TAFと共に積極的な役割を果たしている。(※米国政府にも認知されるUSPAP(米国統一鑑定業務基準)の制定母体。)