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新型コロナウイルス時代の知的財産の価値

コラム

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DATE
2020年08月18日

Gordon Brothers, Managing Director, Business Valuations Cameron Cook

原文は「The Secured Lender」に掲載
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コロナウイルスの世界的な大流行によって、企業倒産や事業閉鎖が堰を切ったように起こりかねない状況となった。事業が今後行き詰まる企業には、広く知られたブランドや知的財産(IP)を持つビジネスも含まれるであろう。最近の業界調査によると、COVID-19の影響により、アパレルブランドだけでもブランド価値が最大20%低下する可能性があるとのことだ[1]。小売業の一部セグメントではコロナ以前から既にビジネスが厳しい状況にあったことを考慮すると、パンデミックの発生により、企業の生存競争は(不可能ではないにせよ)一層困難になっている。このように、ビジネスが下方圧力に直面し、また、経済状況が悪化する中、企業のブランド価値が低下するという認識がある一方で、COVID-19後の経済において一部のブランドは、逆に価値が増大する潜在性を有している。実際に企業ブランドやその他の知的財産は、激動の時代にこそ価値が向上しうるもので、不確実な環境に晒され、事業再構築を進める企業にとって最も価値ある資産となる可能性さえある。

 

我々がブランドを話題にするとき、それは商標や商号だけの話に留まらない。「ブランド」と「ブランド名」という用語は、しばしば「商標」と「商号」の同義語として使われるが、商標とは、米国特許商標庁によれば、「…ある当事者の商品の出所を他の当事者の商品と識別し、区別するための語句、記号、および、またはデザイン」である。「ブランド」という用語はより広い意味で使われていて、一般的には、商標(またはサービスマーク)およびその関連する商号、公式、著作権、および技術的専門知識(これらは特許を取得しているか否かを問わない)などの相互補完的な資産の集合を指す。さらに、ここで使用されるブランドには、企業やその製品のプレゼンテーションやイメージが含まれ、ブランド化された製品への人々の認知や許容も包摂することになる。ブランドには、商標、ロゴ、現在および過去のデザイン、著作権、流通経路、これまでのデザインが残したレガシー、広告のコンセプト、ウェブサイトなどが含まれる。ブランドとは、消費者のブランドに対する経験、感覚、感情的なつながりを体現したものである。

 

経営環境が悪化する時期にはブランドなどの無形資産の価値も低下するという認識は、取得原価の被取得資産への配分を求める企業買収に関する財務開示手続に起因している可能性がある。報告規則に明記はされていないが、取得原価は金融資産や固定資産により確実に配分される可能性の方が高く、取得原価に「余裕」がなければ、無形資産にはほとんど金額が配分されないか全くされない可能性がある。その結果、ブランドに事実上の価値があるにもかかわらず、経営環境が厳しい環境下の企業の買収取引において、無形資産の価値は多くの場合で資産計上されないことになる。さらに、企業の貸借対照表に無形資産が計上されている場合、COVID-19による景気低迷等のトリガーイベントが発生すると減損テストを実施する必要がある。減損テストの結果、ブランドの「公正価値」(ASC820(会計基準編纂書820)、同350/360で定義される)が帳簿価額を下回り、減損が発生する可能性がある。そのため無形固定資産の公正市場価値や最有効使用価値が十分に堅調な場合でも、経営環境が悪化する時期においては無形資産の減損が発生することになる。

 

経済環境が困難な中、とりわけCOVID-19危機によって引き起こされた現状のような環境下では強力なブランドが非常に貴重な資産となり得る。たとえ企業自体が減収傾向にあっても、ブランドを適切にマネジメントすれば、難局を乗り越え価値を提供することが可能になる。消費者はステイホームやロックダウン中に消費を控える可能性があるが、多くの消費者は、非必需品を購入する機会が戻ってきたときにお気に入りのブランドを思い出し、購入の意思決定をより簡単にかつ迅速に行うであろう。また消費者は自分のお気に入りのブランドが平常時の感覚や安心感を与えてくれることを期待している。COVID-19の破壊的な影響が収束した後、企業が業績を回復させ、市場で攻勢を図るために、健全で強固な知的財産が役割を果たすであろう。さらに、店舗型ビジネスは最も大きな打撃を受けており、今回の感染拡大により一部の企業では実店舗型の小売モデルからeコマースモデルへの移行に一層迫られている。強力なブランドはこのような移行の成功を後押しすることができる。

 

新型コロナウイルス対策に伴い世界が直面している景気後退は、多くの企業に対して、より広範囲な社会に暮らす人々の幸福を支えることで自社ブランドを強化する機会を与えている。一部の企業は、売上減少や損失計上の状況にもかかわらず強力なブランドや他の知的財産をこの取り組みに投入している。これらの企業は、たとえパンデミックにより投資決定が難しくなっても、戦略的にブランドへの投資を実施している。一部の企業は、ターゲットを絞った広告やマーケティング・キャンペーンを利用し、消費者との接点を持ち、世界が直面している課題への共感を消費者に示している。さらに、多くの企業がコミュニティサービスプログラムのスポンサーになり、それぞれのコミュニティに還元するための寄付を行っている。確かに、ブランド開発は決して低コストなものではなく、特に流通経路の混乱や減収によって収益が打撃を受ける現状ではなおさらだ。コストが伴っても、消費者と従業員の安全を守り、従業員を雇用し続け、地域社会に共感を示し、必要不可欠な労働者を支援するといった価値観を実証するブランドを消費者は好意的に評価していることが調査結果で明らかになっている。

 

例えば、フォードはエスケープとエクスプローラーの新型車の広告時間を短縮し、その時間を使い、一時的なローンの支払猶予やその他の支援策についての信用プログラムを視聴者に案内した。さらに、フォードは地域社会のニーズに対応するために競合企業を含む他社と協力しているメッセージも市場に向けて出した。また、個人の防護用具や人工呼吸器など、特に必要とされている医療用品を製造する目的にフォードが生産能力の一部を変更したことは、フォードの企業ブランドに好ましい影響を与えた。同様に、携帯電話キャリアのベライゾンは、リモートで働く家庭や自宅で学習する学生を支援するために、無線プランの顧客に15GBの高速データを追加で提供することを約束した。銀行を含む他の企業も、家族がつながりを保ち、在宅での教育や勤務ができるように移行を支援し、この困難な時期に家計に支障をきたさないよう、特別なサービスや支援策を提供している。

 

現在の経済的な厳しい状況下でも、シナジーを追求するストラテジックバイヤーもファイナンシャルバイヤーのいずれもがブランド買収、直接投資、パートナーシップ、または知的財産のセール&リースバック取引の機会を積極的に求めている。買い手候補企業は、現状過小評価されていると考えるブランドを買収することで、市場の中の機会を狙っている。多くの企業が財務的に苦境に立たされ、この不況に耐えるための資金調達方法を模索している。多くの企業は従来の資本には残念ながら限界があることに気付き、現在の市場低迷に対処するためには従来とは異なる資金調達手段を確保する必要を認識している。投資家募集、自社ブランドの担保活用、またはブランドの売却などが解決策となりうる可能性が生まれている。ブランド取引の機会は、買い手にとっても売り手にとっても大きなチャンスとなるだろう。

 

ブランドを買収し経営する立場として、ゴードン・ブラザーズが投資機会に求める要素の一つは、たとえ最適とは言えない景況感にあっても、企業が強力なブランドを維持している状況である。2018年、ゴードン・ブラザーズはベンチ(Bench)ブランドを買収し、強力な国際ブランドを再活性化する機会を得た。そして、2020年4月、同ブランドに新たな息吹を吹き込んだ後売却した。また、ゴードン・ブラザーズは最近、ローラ・アシュレイ(Laura Ashley)ブランドを買収し、ブルックス ブラザーズ(Brooks Brothers)ブランドにも投資を実施した。Authentic Brands Group、WHP Global、Marquee Brandsなども、有望なブランド買収の機会を狙っているプレイヤーの例である。

 

現在、世界中のほとんどの小売業は、新しい生活様式の中で営業を再開するという困難な課題に直面している。これらのビジネスと知的財産の存続は、ブランド構築と活用についての新しい独創的な方法を見つけて適応できるかにかかっている。勝ち組となるブランドは、このように社会が困難な課題に直面する時代であっても、消費者が従来通りそのブランドを信頼しても大丈夫という安心感を提供すべく、その解決に貢献できるパートナーや投資家と連携していくであろう。

 

脚注
[1] ファッショニスタ 2020年4月15日号 and-2020