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小売業界の「ニューノーマル」における消費者行動とは?

コラム

トップページナレッジ小売業界の「ニューノーマル」における消費者行動とは?

DATE
2020年12月15日

※2020 TMA Australia Virtual Conference(24 Nov-1 Dec)で発表

Nick Taylor
Gordon Brothers | Senior Managing Director, International Retail

 

You can’t change the wind, so reset your sails | Global retail: post COVID-19 into 2021

 

 

(日本語版サマリー)

欧米の小売業界には、新型コロナウィルスの蔓延に起因する様々な新しいトレンドが影響している。このような状況下で、多くの企業では今後3~5年の中長期事業計画をどのように策定すべきか模索している。どのようなトレンドが今後継続して、どのような対策が必要なのか。小売業界は、「風向き」を変えることはできないが、「帆を張りなおす」ことはできる。

コロナの前にはECが成長した一方で、街の小売店と郊外の商業地が衰退しつつあった。しかし、今はこれらの店舗にも客足が戻っている一方で、大都市の中心部と大型ショッピングモールは業績が伸びない状況となっている。IMFによると、2020年の世界のGDPは4.4%マイナス成長となる見込みである。世界は大きく変わり、今までの常識は通用しなくなる。

各国の経済指標をみると、少しずつ景気回復の逃しが見えてきている。例えば、イギリスとオーストラリア9月の小売売上は2月よりも5.5%上昇している。中国経済も成長は止まっていない。コロナのワクチンが普及すれば、小売売上はもっと回復するであろう。しかし同時に、多くの国では失業率が高いままとなっている。一見は矛盾しているが、これは「ニューノーマル」の現象の一つといえる。

さて、「ニューノーマル」の世界では、消費者行動はどのように変化するのか。

 

1.Localism(近場で買い物)
消費する「場所」は変化している。多くの調査では旅行を控える傾向があり、近場で買い物する傾向が強くなったことが判明した。都市型の店舗の来店客数は減少した一方で、近所のコンビニエンスストアやスーパー、地方のリテールパークに買い物する人が多くなった。平日人口に頼る都心のビジネス街が特に深刻な状況となった一方で、近所の商店街の売上が回復した。このトレンドは、多くの小売企業の店舗戦略に影響し、今後商業不動産の常識を覆すことになるであろう。

 

2.Price Consciousness(価格に敏感)
消費者は今、お金の節約を大事にしており、価値をより強く求めて、価格にとても敏感となっている。高価格・高品質のブランドや店舗より、低価格・中品質のものに客が集まる傾向であり、価値を求めて消費するブランドを乗り換える可能性も高い。

 

3.Conscious Consumerism(環境・社会意識をもった消費行動)
最近の調査では、環境保護と循環型社会に関心を持っている消費者が増えている。買い物するスーパーを選ぶときは、環境的・社会的論理を意識した企業を大事にする消費者が多い。欧米の小売企業では様々な取り組みが行われている。消費者は、食品廃棄物の低減、リサイクル商品の販売、下取りと再販スキーム等で、循環型社会に貢献する企業にシフトしている。環境・社会貢献型消費の市場規模は数年以内に倍増する見込みである。

 

4.Brands –Trading up, Trading down, Trading off(消費するブランドの変動)
米国の消費者のうち75%の人は、最近買い物の仕方や購入するブランドを変えている、という未聞の速度でブランドロイヤルティが変化している。消費者全体はより高い価値を求めていることと、より倫理的なブランドを求めておることが共通しているが、客層によって、二極化する傾向がみられる。高所得者は、より高いブランドにシフトしている。一方で、若者はより安いブランドにシフトしている。信頼度が高いメジャーブランドへの回帰、そして安いブランドへの客の流れがみられる。中価格帯、中品質のブランドは危ない。また、顧客との距離が近いローカルブランド、オンラインブランド、顧客の近場で購入できるブランドは優位となる。一方で百貨店等の中間流通小売はますます不要となる。

 

5.E-Commerce and Digital(ECのトレンド)
パンデミックの影響で消費者の行動が変わり、各国のEC大手の売上は極めて好調である。例えば、イギリスでは、小売のEC比率はコロナ前で20%程度だったが、2020年5月には33%に急上昇し、また9月に40%に上がった。たったの6ヵ月で、以前の予測で6年後の水準まで上昇した。

 

小売企業はこの急速な変化に対応するためにいくつかの戦略を打ち出している。その一つは、クリック・アンド・コレクト(ネット購入、店舗受け取り)。英国では、大手百貨店John LewisがコンビニチェーンCoopと提携し、全国500店舗で翌日受け取りを可能とした。ただし、ECへのシフトは容易ではなく、新規顧客獲得のコストが高いことや、実店舗の既存顧客の減少につながることすることが難点である。しかし、EC化は、非常に強い傾向であり、小売業界にとって非多大な影響を及ぼすであろう。

これらの大きなトレンドに踏まえて、小売プレーヤーはビジネスプランの見直しをしなければならない。対策として、ブランドの再編や最適化(百貨店Marks & Spencer)、ECサイトのマーケットプレイス化(decathlon)、オムニチャネル・小型店の出店加速(IKEA)等が挙げられる。もう一つ有効な戦略は、ブランドのリストラである。これは、既存の小売ブランドの実店舗や流通網という資産を縮小し、オンライン販売とライセンス事業のみのシンプルなビジネスモデルへ再構築することである。ゴードン・ブラザーズは最近、イギリスのブランドLaura Ashleyの知的財産権を取得し、今後ライセンスビジネスの展開とECの拡大を目指している。

PWCの予測では、2021年に、あらゆる業界が再び成長局面になると予測している。ただし、今を乗り越えるのは「環境に適応できた生物のみは存続する」というダーウィンの進化論が有効であろう。風向きを変えることはできないが、帆を張りなおすことはできる。