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小売業で大切な「4つの力」

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DATE
2018年06月29日

GBJアドバイザリーボードメンバー 桝田 直

■ 変わる三現・変わらぬ三原
IT技術の発展により、小売業の姿が大きく変わって行こうとしている。いや、変わっていかざるを得なくなっている。長年、IT分野にたずさわってきた私が言うのも変な話だが、こういう時こそ、小売各社は、三現(現場・現実・現物)を変革して次代に適合させていく為、小売業(商売)の三原(原点・原理・原則)を確認しておくことが必要と思う。
そこで、今回、アナログ的な内容であるが、三原の一つである小売業の「4つの力」について述べてみたい。

■ 小売業の4つの力 – 起点はお客様
今更・・・、ではないが、小売業における判断・行動の全ては、「お客様起点」でなくてはならない。ところが、店数が増え、企業規模が大きくなると、この大切なことを忘れて、あの手この手の術策に走る小売業が多い。「正しきによりて滅ぶる店あらば滅びてもよし 断じて滅びず」という、商業界の主筆をつとめた新保民八氏(1901~1958)の有名な言葉がある。「お客様にとって正しいことをして店が滅びるなら滅びてもよい。しかし、お客様にとって正しいことをしているなら絶対にお店は滅びない」との意味だが、IT技術を駆使し、データを活用した小売業・店舗の変革が叫ばれる今日だからこそ、是非とも心に刻み込んでおきたい言葉である。

小売業の4つの力


①選択する力(個品力)

「お客様にとって正しいこと」は変化する。しかも、年代や地域、生活様式や個々のマインドによって異なる。それ故、「お客様にとって何が正しいのか」をつかみ、「今、そして今からのストライクゾーンは何処なのか」を予測することは難しい。商品仕入やPB商品開発担当者に、「何の為に?」「何故、この商品を?」と聞くと、「今、売れているから…」「メーカー推奨品だから…」、「リベートが多くもらえるので…」、「粗利益率が高いので…」といった答えが返ってくることが多い。お客様を見ること(マーケティング)はメーカーに任せ、データを見て、売れている品、儲かる品を選択して(集めて)いる。
結果、売場は、沢山の品(製品)が置かれているものの揃っておらず、「品集め」「寄せ集め」「掻き集め」状態となり、百家争鳴のウルサイ売場になってしまっている。そもそも、「 “何を仕入れるか”を決定している」のはバイヤーではない。お客様が決定している。バイヤーは、お客様の代行者として、お客様になり切ってお客様にとって魅力ある品(製品)を探し、選択し、数量を決め、売価を決める。しかし、自店はもちろん競争店に行って現場・現実・現物の非データ系情報に触れ、お客様の心の中にある隠れたニーズを探し出す(インサイトしている)バイヤーは少ない。取引先の声を聞き、パソコンから表示されるデータ系の情報を見て仕事をしていては、「個品力」ある品を「選択する力」は身について来ない。

②組み立てる・組み合わせる力(品揃え力)
個品力ある品を、組み立て、組み合わせる力、それは、「揃える力」である。売場で、お客様が気づきやすい・買いやすい・探しやすい・わかりやすいように、個々の魅力ある品(製品)を分けて括る力、編集・構成する力、つまり、品揃え力である。この力が優れ、上手く揃えれば、個々の品(製品)は、商いの品(商品)になる。その為には、商品の分けカタと括りカタ、即ち、商品分類が大変重要になってくる。商品分類は、お客様の生活構造・様式変化によってニーズが変わって来ると変えていかなくてはならない。しかし、旧態依然とした昔ながらの分類の為、ゾーニングが崩れてまとまり感のない売場になってしまっているところが結構多い。商いの品が揃っているという状態になっていない。ズレ、モレ、ダブリがいっぱい発生している。前述の「やすい売場」ではなく、お客様にとっては、気づきにくい・買いにくい・探しにくい・わかりにくい、「にくい売場」になってしまっている。「分け(カタ)が分かりにくい、分けのわからない売場」にならないよう、分類を見直し、意図(意志+構図)して、揃えなくてはならない。

③伝える力(売場づくり・陳列・演出力)
「伝える力」は、個々の商品の魅力をお客様に「行き届かせる力」であり、今日、とても重要な力である。「企業(店)に主張、商品(品揃え)に語りを!」と言われる。「私達は〇〇だ!」、あるいは、「今、コレだ!」等の主張を、商品に語らせているだろうか、品揃えで語っているだろうか。そもそも、企業・お店の主張は明確になっているだろうか。売上を大きくするために、主張とは異なる商品を売っていないだろうか。語らせてはいるが、「価格だけ」ということはないだろうか。価格訴求も大事だが、今からは、もっともっと、「商品の持っている魅力」、「その商品によってお客様の生活がどのように変わるのか」といったことを、お店・売場で提案し、お客様自身が、この商品によって自分の生活がどのように変わるのかをイメージ出来るように伝えて行くことが必要である。お客様が店内を歩くと、「これはいいなぁ。これを使って、〇〇をしたい」、「美味しそうだなぁ。食べてみたい」と、「~たい」が生まれる売場づくり、「商品が語り、商品そのものが接客する売場」、「提案する売場」をつくることが、今、とても大事になって来ている。店内で、お客様の「~たい」というBe Needsが生まれ、「コレが欲しい」というDo Needsに繋がっていく売場、つまり、「お客様を店内で創造する売場=製品を商品にする店内マーチャンダイジングがなされている売場」をつくるのだ。お客様が店内を歩くと、「ニーズが生まれてくる売場」、「潜在ニーズが顕在化する売場」をつくりあげたいものである。

④売り切る力(始末出来る力=計画販売力)
「始末・算用・才覚」、これは、「商いの三法」と言われる。ここで言う「始末」は、単に、浪費をしない、倹約をするという意味だけではない。「計画を立て、それを実行し、管理する」という意味、「末、つまり、最終的な着地を考えて、物事を始める=始末する」という意味を持っており、商いにおける計画の重要性を訴えている。伊勢の赤福餅には、「三個売るより、一個残すな」という有名な先代の言葉がある。昔、ユニクロの柳井氏も、「利益は売れるから出るのでなく、売り切り、残さないから出る」と言われていた。この、「残さない力=売り切る力」は、会社が大きくなって行くにしたがって身につけ、磨き上げて行かなくてはならない。過去、「売る力」のみに目が行き、「売り切る力」を身につけて来なかった為に大量の残在庫を抱えて消えて行った小売業は多い。まさに、「魚は頭から、小売業は在庫から腐る」のである。残念なことに、今、大変革を求められている状況にあるにもかかわらず、いまだに、「残ったら返品する」という商売をしているところがある。いうまでもなく、この状況に長い間浸っていると、売り切る力は一向に身につかず、選択する眼は甘くなる。結果、規模拡大すればするほど沈殿在庫・宿便在庫が増え、やがて経営が在庫に圧し潰されて息詰まることになる。そもそも、返品リスクは、仕入原価に上積みされる。故に、例え企業規模が大きくなっても、返品を良しとするような商売をしていては、規模の経済を享受して収益力を高めていくことなど出来ない。逆に、規模拡大とともに、規模の不経済が大きくなって行ってしまう。にもかかわらず、「返品を良しとする商売をしながら、規模の経済を追い求める」という矛盾したことをしている小売業は多い。また、返品リスクは、「原価アップ⇒売価アップ」となり、そのコストは、最終的にお客様が負担することになるのに、「返品を良しとする商売をしながら、“お客様の為に”と言っている」ところがある。新保民八氏がこのことを知れば、それこそ、「始末に負えない小売業だ」と嘆くだろう。
ニトリやユニクロといったSPA型小売業は基本的に返品できない、残ってしまうリスクは自分達が背負う。それ故、計画(売り切る為の計画)にもの凄く神経・エネルギーを使い、売り切る為のノウハウ、在庫管理能力を高めることに注力する。取り扱い量の拡大に伴う在庫リスク増大を、質の強さ、即ち、自主マーチャンダイジング力を強くすることによって低減していっている。この力は、「返品できる」という状況下にある小売業では絶対に生まれて来ない。それ故、大きくなることは出来ない。

■ 店は見世・魅世
昔から、「店は見世(魅世)」と言われる。4つの力を高め、磨き上げた結果は、すべて店に現れる。三現化されてくる。現場・現実・現物に現れてくる。このような時こそ、小売業の三原を確認し、それを踏まえて、三現を大胆に変えていきたいものである。