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事業再生ファイナンスと譲渡制限特約付債権 ~民法改正を見据えて~

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DATE
2019年03月15日

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン ソーシング&マーケティング
シニアマネージングディレクター  堀内 秀晃

■ はじめに

アベノミクスによる好景気の影で、経営危機に陥った企業向けの事業再生ファイナンスの機会に接することが多くなってきた。事業再生ファイナンスでは、借入人が有する売掛債権を担保に取ることが多いが、現行民法では担保にしようとしている売掛債権に、譲渡を禁止する特約(譲渡禁止特約)が付されている場合、同特約に基づき譲渡が禁じられているために譲渡が無効となり、担保権が及ばない。小売業者向けAsset Based Lending(ABL)でも売掛債権を担保として用いたいが、多くはクレジットカード債権で、これには譲渡禁止特約が付されているため、クレジットカード会社に特約を外してもらわない限り、担保として活用できない。

2020年に施行が予定されている改正民法(改正債権法)の下では譲渡を制限する特約(譲渡制限特約)が付されている売掛債権(譲渡制限特約付債権)の譲渡が有効になる。これは、譲渡限特約付債権を担保として活用して中堅・中所企業の資金調達の円滑化を図ろうというのが、その趣旨である。しかし、実務上は担保権者であるABLの貸付人にとって以下の懸念点が残った。

■ 改正民法下で譲渡制限特約付債権の譲渡を用いたファイナンスの懸念点譲受人の立場)

改正民法の下では譲渡制限特約付債権の譲渡が有効になるので、これの譲渡を受けることで、売掛債権を担保とすることが可能になる。しかし、譲渡制限特約自体も有効であるので、譲渡制限の付いた債権を譲渡するという行為は、譲渡人であるABLの借入人が取引先である企業(第三債務者)との販売契約の中にある譲渡制限特約に違反することになる。これを知りながら、譲渡制限特約付売掛債権の譲渡受け、担保として融資を行った金融機関(ABLレンダー)にも問題があるかもしれないという懸念が残る。

ABLレンダーである譲受人の立場から、具体的なリスクと考えられるのは以下の三点である。

①損害賠償請求訴訟リスク

譲渡制限特約付債権を譲渡することはABLの借入人である譲渡人とその取引先である第三債務者の間の契約違反(譲制限特約違反)を惹起する。債権譲渡の事実を知った第三債務者が契約違反を理由に契約を解除、または期限延長に応じないといったことが起こる可能性がある。こういった契約の解除等によって被った損害は金融機関にそそのかされて譲渡制限付債権の譲渡に応じたことによるので、損害賠償を求められるというリスクである。

②レピュテーションリスク

ABLの借入人が譲渡制限特約付債権を譲渡してABLの融資を受けた後に、第三債務者がこの事実に気付き、契約を解除したり、期限延長に応じなかったりしたことで、借入人が取引先を失い、業績が悪化、破綻した場合に、その責任の一端を譲受人である金融機関になすりつけ、これが、マスコミの好餌になったり、監督官庁から問題視されたりすることで、当該金融機関が評判を落とすリスクである。

③第三債務者との関係悪化リスク

譲受人たるABLの貸付人(ABLレンダー)が第三債務者と取引関係があり、第三債務者が譲受人に対して、譲渡制限特約を無視して譲渡を受けたことについて、クレームを指摘して、関係が悪化するというリスクである。

まず、①の損害賠償リスクについては、ABLの融資契約の中でレンダーの免責条項として、譲渡制限特約付債権の譲渡を原因とする損害についてはレンダーに訴求できないと約することや、借入人に、譲渡制限特約付債権の譲渡については契約違反となる可能性を了知した上で、自身の判断で譲渡を行うものであることを表明保証してもらうことで契約上、手当てができる。加えて、レンダー(譲受人)から借入人(譲渡人)に譲渡制限特約付債権の譲渡に伴うリスクについて直接説明をし、その事実を記載した記録に先方の署名をもらう等でも金融機関としてのリスクを軽減できよう。

②のレピュテーションリスクについては計測することが不可能であるので、これを完全にヘッジすることは困難であるが、規制業種である銀行等は監督官庁から問題がない旨の公式または公開された確認が取れれば、相応に安心できる。監督官庁が公式に了解していれば、マスコミ等で当該金融機関に対してネガティブな報道になるとは思えない。

③の第三債務者との関係悪化リスクについては、他の第三債務者の同様の債権も譲渡を受けており、当該第三債務者の売掛債権のみを対象としているわけではないこと、また、金融機関は譲渡制限特約が入っている契約の当事者ではないこと等で抗弁は可能である。しかし、取引関係はそういった理屈ではないこともある点には留意を要する。金融機関が譲渡制限特約付債権を対象としたABLを行うことが一般化されてくると、そういったクレームをする第三債務者も少なくなる予想されるので、①、②のリスクをヘッジしながら進めることが肝要である。

■ 現状

改正民法の下で譲渡制限特約付債権の譲渡を受けてABLを行なうかどうかは個別金融機関の判断による。こういった状況下で譲渡制限特約付債権を用いた資金調達を促進するには、第三債務者である企業が債権譲渡を理由に契約を解除しないように理解を深めてもらうこと、金融機関にとっては、監督官庁から、何らかの方法で譲渡制限特約付債権の譲渡は問題が無い旨の確認を得ることが大きな鍵になるのではないであろうか。

そういう意味では、平成30年6月15日に閣議決定された規制改革実施計画は画期的である。「(10)金融・資金調達に関する規制改革」の「譲渡制限特約が付された債権の譲渡に関する解釈の周知」において、法務償、経済産業省、国土交通省は「譲渡制限特約が付されていても、債権の譲渡は妨げられないこと、資金調達目的での債権譲渡については契約の解除や損害賠償の対象にならないこと、債権譲渡行ったことをもって契約解除や取引関係の打ち切り等を行なうことは極めて合理性に乏しく、権利濫用に当たりうること」を政府解釈として経済団体、業界団体等を通じて国民に幅広く周知することになった。加えて、金融庁はそのホームページ等で「融資先による契約違反を惹起させることに関して金融機関が抱き得る懸念を払拭するため、融資先から譲渡制限特約が付された債権を譲り受けること、・・・について、金融機関から示される金融監督上の具体的な懸念点」について自らの見解を公表することになった。これらの実施計画が実施されると、金融機関に対してかなりの安心感を与えることになると推察される。

■ おわりに

上記によって、第三債務者側は譲渡制限特約付債権の譲渡について理解を示す可能性が高まり、金融機関も公表ベースで譲渡制限特約付債権の譲渡を受けることが問題ない旨を確認することができるので、既述の懸念の大部分が払拭されることになる。

こういった動きを踏まえて、改正民法下で譲渡制限特約付債権の有効活用によりABLの促進が図られることを願いたい。

 

(参考文献)
井上聡、松尾博憲(編著)
三井住友フィナンシャルグループ、三井住友銀行 総務部法務室(著)
「practical 金融法務 債権法改正」(第7章 債権譲渡)一般社団法人金融財政事情研究会
堀内秀晃 「民法改正と譲渡制限特約-ABLレンダーの視点より-」金融法務事情2031号