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小売業における次なる成長と外部協業の必要性

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DATE
2019年06月05日

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン リテール
シニアマネージングディレクター  原田 宜和

小売業の課題感

「その店舗で買い物をする理由は何なのか?」

顧客の購買嗜好やアマゾンに代表されるデジタル販売チャネルの拡大を契機に日本の小売業は変革の時を迎えている中、今が小売業にとってこの問いに対する最適解を見つけ出すタイミングといえよう。

ところで、小売業のこれまでの歴史の中ではいくつかの勝ちパターンが見受けられた。

➀安く仕入れて、安く売る
②他社の情報を元に売れ筋等のポジティブな情報を模倣する
③オペレーションルールを徹底し、画一的な運営を行うことで無駄を省きコスト削減を行う

このようなビジネスモデルを構築することで、”カイゼン”をキーワードに拡大路線を行っていけば一定の成果を上げることができた。当然この時代にはスマートフォンはなくデジタル販売チャネルも存在しないため、画一的な価値観による購買嗜好が形成されやすいことも大きなポイントになったといえる。

翻って昨今の時流に合わせてこれらの要素を整理した場合、当然ながら冒頭の問いに対する解は出にくい。デジタル販売チャネルのプレーヤーは、その仕組みからして安さに対してもしっかり対抗できるであろうし、また多量の情報がスマートフォンをはじめとした様々なデバイスから得られる現在においては、顧客もほぼ同時に有益な情報に触れることができるため、他社やマーケットに存在するポジティブ情報についてもすぐに手に入れられる情報になる可能性が高いことは重要な点といえる。

このように従来の小売業の勝ちパターンだけでは、その店舗で顧客が買い物を行う理由にはならず、新たな要素を加えてビジネスを展開する必要性が出てきているといえる。

■ 顧客の購買嗜好

現在、顧客の購買嗜好は大きく二つの方向に向かっていると考えられる。一つはそれぞれの顧客が自分に合う商品やサービスを求める嗜好であり、もう一つは実体験を重視する嗜好であろう。

前者においては、CRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)ツール等を使用し詳細なパーソナル情報を得る必要があり、その情報を基に”有効な”アウトプットを行うことが必要不可欠といえる。また、販売導線のシームレス化としてe-commerceの活用は重要な要素となり、顧客から見れば個人情報を提供する代わりに効率的に買い物ができるメリットを享受できる。

他方、後者においては、実体験を通じて、購買行為自体のリアリティーを提供することで商品や店舗に付加価値を与えることが可能となる。お買い得品を見つけた時、探していた商品を見つけた時、新商品を手に取り興味が湧いた時等の”確かな実体験”は店舗そのものが持つ唯一無二の魅力といえよう。

PB戦略の頭打ち

日本の小売業は有名ナショナルブランド(以下「NB」)は値入率が低くて収益が出にくいことや、価格決定権を小売業側が担保できないため、小売業各社は商品の中身はある程度そのままにパッケージ等の変更を施した、値入率の良いプライベートブランド(以下「PB」)の開発を1960年代の黎明期から今日まで拡大してきた。

ところが一部の小売業を除き、PBの売場構成が大きくなったことで”買い場”としての面白みが欠け、”買い場”の同質化が進んだ末、価格戦を強いられているPBも少なくない。導入当初の値入率が確保できるという目論みは徐々に供給側のご都合主義となり、その結果顧客の支持を得にくい状況を引き起こしてしまっている。今となれば、これらの状況は「顧客の購買嗜好の変化によるもの」に起因するといえ、PBの拡大は顧客が自身に合う商品やサービスを求めている傾向や実体験を重視する傾向と、相対するものであることは明確であるものと指摘できる。

■ 非効率事業の早期縮小

前述の顧客嗜好により求められるサービス内容や店舗としてのロイヤリティーを担保するためには、これまでの顧客へのアウトプットの内容と方法を大きく変更する必要がある。その為には小売業各社が各々にその特長を際立たせるための成長戦略が必要といえ、そのためには大なり小なりの構造改革が必要だ。この構造改革に必要な資金については、非効率な既存ビジネスの縮小(撤退)から生み出すことが望ましい。例えば、

  • 多店舗展開をしている小売業において、ドミナント戦略から外れ競合からの攻勢にさらされる店舗をこれからも展開する必要があるのか
  • 出店から3年以上経過しても未だ満足する営業利益を計上できない店舗をいつまでも展開する必要があるのか
  • 滞留・不稼働在庫を数年にわたり保有し続ける必要があるのか
  • 全社的に在庫を絞り込んでいるにもかかわらず、複数年の賃貸借契約を締結してでもアウトレット店舗を出店し続ける必要があるのか

等、出店戦略やマーチャンダイジングに関わる部分だけでも非効率な事業は多く存在している可能性がある。数年前にトヨタ自動車が「意志ある踊り場」と表現したことは未だ記憶に新しいところだが、小売業各社においても次なる成長に向けたこの主体的な踊り場(構造改革)を実行してもよいのではなかろうか。

■ 成長戦略

昨今の小売業を取り巻く環境から次なる成長戦略の立案と構造改革の実行は、日ごとに喫緊性を増している。今まで通りのやり方や常識を当たり前にしていれば、本質的な自身の特長や弱みを把握しきれず、またそこに眠るビジネスチャンスやリスクすら気づきにくくなり、企業の成長の大きな足枷となる。成長戦略を描く上で、自社の強みや弱みをしっかり把握することは非常に重要であり、強みをこれからの顧客嗜好やマーケットにどうマッチングさせるかについては、より深い議論と新しい発想を持ち込む必要があるであろう。

まずはあるべき論を描き、その上でそれらを表現するために必要な顧客動線や店舗オペレーションを実現するべく、デジタル技術やCRM等のツールを構築していけば、より意味のある戦略になるものと考えられる。数年先に向けてのビジョンを設計する中で、“その店舗で顧客が買い物をする理由”をサービスに求めるのであれば、サービスのカスタマイゼーションか実体験重視のサービスか、自社の強みがどちらの方向性に親和性があるのか、この仮説の組み立てに自社のあらゆる知恵を集結させる必要があるであろう。

■ 外部との協業の必要性

他方、弱みについては何も自社で解決する必要はない。自社にそのノウハウがないのであれば、外部と協業することでそのリソースとノウハウを確保した方が効率的である。

そもそも、自身の弱みに自社のリソースを割くことは、リスクの高い分野に固定費を割いていることと同義でなり非効率といわざるを得ない。もし、マーケティングに弱みがあれば広告代理店からCMOに代わる人材を派遣してもらえば良く、ブランディングに弱みがあるならば外部のブランディングに長けたコンサルと協業するのも良いだろう。そして、滞留・不稼働在庫の処分や店舗の撤退においては、自らの労力を最小限することを目的に外部との協業を行う方が効率的といえる。

こと滞留・不稼働在庫の処分や店舗の撤退等のある種”後ろ向き”な業務については、自社で行うことに限界があると考える。企業の経営にとっては実は重要なこれらの”後ろ向き”な業務は、既存の人事評価制度では評価されにくく、担当者が全力で取り組むインセンティブは働きにくい。この意味でも外部との協業については、必要な要素となってくる。

迫る構造改革の必要性と労働人口の減少という事象に端を発し、外部のプロフェッショナルとの協業で多角的な考え方やノウハウを吸収しながら効率的な成長を続ける企業が、これからの日本の小売業の在り方と考える。