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デジタル革命を業務改革・機構改革の起爆剤、手段に!

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DATE
2020年07月20日

GBJアドバイザリーボードメンバー 桝田 直

政府のコロナ対応により、行政の仕組み(仕事・仕掛けの組み合わせ方)、仕事のやり方が、如何に旧態依然として非効率であるかが明らかになった。その解決は、「デジタル化の推進だ!」ということで、政府はこれを強力に推し進めようとしている。

しかし、今までの縦割り行政の中で長年続いてきた「仕組み」や「仕事のやり方」、「(機能分担)構造」にメスを入れることなく最新の技術を使ってデジタル化、システム化しては絶対にいけない。業務改革や機構改革は地味で抵抗勢力との戦いになる。一方、デジタル化の仕事は華々しくて面白い。抵抗はそう大きくない。この為、デジタル化に先行して手をつけるべき業務改革や機構改革が置き去りにされる。

覚えておられるだろうか。20年ほど前、日本にERP(Enterprise Resource Planning)ブームが起こった時のことを…。ERPは、人事、経理、総務、営業等の異なる部署を横断して、企業全体を一つのシステムで一元的に管理するシステムである。当時、業務全体の最適化(目的)の為にERP導入(手段)が叫ばれ、多くの企業がその開発・導入に踏み込んだ。

実は、この時、言われていたことがある。それは、「欧米はERP導入の際に、今までの業務のやり方や組織のあり方を見直した。ところが、日本は、その見直しをせずに、ERP導入によって今の組織で行っている今のやり方を効率化しようとしている。これでは、ERPパッケージシステムのModify(手直し・変更)やadd-on(追加)が多くなり、当初の狙いであるERP導入によって組織や仕組みの変革による業績アップは出来ない。逆に、業務は今までよりも複雑になり、その後の運営コスト圧迫に泣かされることになる。」というものである。

当時、私は、大手小売チェーン企業のシステム責任者で、レガシー・システムを新しい技術を使ったシステムに乗せ換えるリーダーをしていた。社内の多くの人間は、「最新技術を使ったコンピュータ・システムにすれば現状の様々な問題は解決する」と期待(誤解)をしていた。「新技術導入、新システム開発の前に、今までの業務と、その業務を行う機構組織を変えることが必要」と思っている者は数少なく、結局、大した業務改革はなされずERPの開発・導入に突っ走ってしまった。

当時、ビルゲイツ氏は、「今までの複雑な業務をそのままにして、最新技術でこれを解決しようとすると、業務はもっと複雑になる」と言った。また、「ツールが変わればルールが変わる」とか、「まず、今の業務の構造と業務の流れ(プロセス)を最適化せよ。」「BPR(Business Process Re-engineering)から手をつけろ」と多くの人が警鐘を鳴らした。しかし、時はERPブームの真っただ中。ベンダーやコンサルタントが唱える三文字熟語に酔い、踊り、多くの人・企業が、ERP導入そのもの(手段)が目的となって突っ走っていった。

小売業の業務とシステム実態

「デジタル革命」が叫ばれる今、小売業がやるべきことは何だろうか。

実は、政府同様、縦割り型組織で、各組織が今までの慣行に縛られ、業務石器時代ともいうべき仕事のやり方をしている小売業は多い。「基幹業務はレガシー・システムで動いており、コンピュータ部門がそのお守で喘いでいる小売業」、「今まで、様々なツールを各組織が導入して来た結果、絆創膏だらけのツギハギ・システム、様々なツールやアプリを塗り重ねた厚化粧システムになっていて業務効率低下、間接コスト増に陥っている小売業」が沢山ある。

「未だにワークフローシステムが無くて紙による申請・届けがなされている」、「会議にはシコシコとExcelやAccess、マクロ(VBA)で作った資料が配布される」、「CSVによる部署間のデータ交換・移動をしている」といった「デジタル革命」を唱える以前のレベルにある小売業である。

基幹業務力アップ&基幹システム整備

このような状況にある小売業が眼を向けるべきは、最新の技術やツールの取得・導入ではない。

まず、自社の業務の「全体の見える化」をすること、そして、「各部署が抱え込んでいる目的が曖昧で機能していない仕事」、「報告(書作成)やチェックの仕事」、「会議の議事録や出席対象者」、そして、「稟議書の押印欄の数」までキメ細かく棚卸しを行い、思い切って“ヤメル”のである。それは、デジタル革命の「前処理」、「仕込み」であり、トップが旗を振る企業内革命である。

小売業において、この代表的な革命は、小売の基幹業務である「マーチャンダイジングの業務サイクル(以下、「サイクル」という)」を上手く回す仕組み(「実体業務システム」と言われる)と機構組織を創りあげ、サイクルを回す実業務力を高めて行くことである。

このサイクルは、お客様を起点とした「販売・品揃え計画」から始まり、「商品を発注してから店舗に届くまでのプロセスのサイクル」と、「届いた商品を陳列・販売して在庫管理へ、そして、より良い品揃え計画へと至るマネジメントのサイクル」の2つによって構成される。小売マーチャンダイジング業務の「連関サイクル」とも呼ばれる。このサイクルを回す業務レベルは企業によってかなりの差があり、その差が企業力の差になっている。コンビニエンス企業やSPA企業は、このサイクルを組織的に上手く回しており、年々、個々の商品力、品揃え力、そして、売場力がパワーアップして行っている。

この業務サイクルを回す上で必須になってくるのが、「マーチャンダイジング・サイクル・システム(MCS)」と言われるコンピュータ・システムである。

単品データを、発注時点(POO)、入荷時点(POR)、販売時点(POS)、在庫・売価等の移動変更時点(POC)で把握し、マーチャンダイジングの業務サイクルを、効率的・効果的に回して行く基幹システムである。

MCSは、先ほどのプロセスを担う「マーチャンダイジング・プロセシング・システム(MPS)」とマネジメントを担う「マーチャンダイジング・マネジメント・システム(MMS)」の2つで構成される。

MPSは、発注・補充要望された個々の商品(単品)が途切れ・滞留・逆流・乱流せず、整流化されて店舗に届くようにすることを、また、MMSは、届いた商品を販売計画に基づいて販売、在庫管理することを目的とする。主に、MPSは省力化効果、MMSは増力化効果(売上や粗利益率の上昇、チャンス・ロスや不明ロスの減)を生む。

デジタル革命を、業務改革・機構改革の起爆剤、手段

このMCSは、多くのサブシステムで構成され、それが一体となった全体システムである。しかし、サイクル上の業務(サブシステム)が全体として連携・統合されていないツギハギ・レベルのものが多く、全体として設計・開発されたMCSを有しているところは少ない。

今、小売業には魅力的で「魔法の杖」のように見える様々なデジタルアプリ、ツールが登場して来ている。その動向を注視することは必要だ。しかし、それに目を奪われることなく、まずは、自社の基幹業務に目を向け、デジタル革命を業務改革・機構改革の起爆剤、手段にしたいものである。