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「業務システムのデジタル化」を成功させる為に!

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DATE
2020年12月25日

GBJアドバイザリーボードメンバー 桝田 直

 

今、多くの企業が、デジタルやDXという言葉を冠した部署やプロジェクトを設置し、IT要員の採用を活発化している。

菅総理(以下「菅氏」)が、「行政の縦割り」、「既得権益」、「悪しき前例主義」を打破し、「デジタル庁」を創設して「規制改革」と「行政改革」に動き出したことに触発されたからだろう。

私は、過去、小売企業数社の再建にたずさわり、その都度、業務改革・システム再創出を行ってきた。それは、規模は違えど菅氏が今からやろうとしていることと同じだった。

経営不安に陥った小売企業は、例外なく機能が縦割りの職能部門別組織で、「自分達は他部署の仕事に口出ししない。だから、他部署の人間は自分達の部署、業務に口出ししないで欲しい」という組織力学を生み出していた。「隣は何をする部署ぞ!」と無関心・無関与な閉鎖的部署(サイロ)の集合体になっていた。特に、古株の親分が居て、ジョブローテーションがなく、長年、同一部署で同じ仕事をしてきて漬物状態になっている社員が多い部署は、自らを「専門家集団」と称して、外部の声に耳を傾けない、変えることを拒む硬直化した集団になっていた。菅氏が問題視していることとよく似た状態であった。

そこで、菅氏の取り組みを対比させながら、企業が「業務システムのデジタル化」を成功させる為のステップと要件を私の経験をもとに述べさせていただく。

第一段階 今までと戦い、今からを確認・共有

前述のような状況に陥った集団の業務システムを再創出するのは容易ではない。抵抗が大きい。ソフトウェア開発、新たなハードウェア導入の前に、まずは、ヒューマンウェアマインドウェアをゴロッと変えなくてはならない。「システム設計は思想設計」、「トップにとってシステム設計は技術の展開ではなく思想の展開だ」と言われるが、まずは、抵抗勢力との戦いから始めなくてはならなかった。

人・組織に“今から”の考え方、価値観、戦略を示して「確かに!」「なるほど!」との声を引き出し、会社・自分達の“ありたい姿”“なりたい姿”を共有化して、「よし、変えようぜ!」、「やろうぜ!」と心の底から皆が思うまで、多大な時間とエネルギーを費やして思想革命を成功させるのだ。

料理の味は仕込みの段階で決まる」と言われるが、業務システムのデジタル化を成し遂げ、そのシステムを正しく運用する組織体をつくり上げるには、この仕込みの段階が大変重要である。

第二段階 実体業務システム、機構の設計と、基準・ルール・手順の設定

この仕込みの次は、(1)各部署が、今やっている業務そのものを見直し、実体業務システムを再設計する、(2)再設計した実体業務システムによって仕事をする機構(機能遂行責任分担構造、組織)を構築する、(3)業務を行う際の「基準・ルール・手順」を具体的に定めること、に取り組んで行くことになる。

そして、(1)(2)(3)は、定期的に開催するステアリング・コミッティで検討し、全体視点から統合化をしていく。

この段階で一番重要で難しいこと、それは、「やめる」ことである。人・組織は、変える・創ることにも抵抗するが、今までやってきたこと、今やっていることをやめるとなると、その抵抗の度合いは比ではない。組織内には、目的と機能を失った業務、慣行ロックのかかった生産性の低い業務が数多くある。これらを、まず、思い切って(今までへの思いを切って)やめなくてはならない。ここで妥協すると、次のデジタル化の段階で死に金を使うことになる。しかも、開発した業務システムは複雑になり、使いにくい死ステムになる。

ビルゲイツ氏は、「非効率な業務のやり方をそのままにして最新の技術で効率化しようとすると、その業務はもっと非効率になる」と言っていたが、この非効率な業務、やり方を、次の技術展開の段階に入る前に、強引な腕力を使ってでも切断しておかなくてはならない。

■ 第三段階 コンピュータシステム開発デジタル化

第二段階で実体業務システムが動いている(使われている)イメージが瞼の裏に浮かべばシステム開発はほぼ完了している。後は、技術の展開、即ち、デジタル化していけば良いだけだ。もちろん、デジタル化の段階に入る為には、その為の「要件」を技術者に明確に示さないといけないが、実体業務システムが動くイメージを描けていれば、当該要件は具体的に定まっているからだ。

実は、デジタル化の為の要件が曖昧なままデジタル化に踏み込み、デジタル化のプロジェクトが彷徨・迷走する、場合によっては途中で行き止まる、後戻りするといった悲劇が、表沙汰にはならないが結構起こっている。

この段階は、抵抗勢力でなく、時間とコストとの戦いになるのが常だ。

それだけに、デジタル化の上流工程である実体業務システム設計のツメが甘く、要件の具体化が不十分だとデジタル化は遅れに遅れ、追加予算要請の連続という状況に陥ってしまう。

さて、河野行政改革相(以下、「河野氏」という)は、「とにかく、オレが地雷原を取っ払わないと後ろから戦車でやってくる平井さんが前に進めない。オレはそういう役回りだ。」と言っていた。また、今年を表す漢字を砕氷船の「砕」とし、「先駆けとなって氷を割り、タンカーが進める海面を開く仕事をしっかりやりたい」と語っていた。

河野氏は、「自分が第二段階を担わなくては…」と認識しておられるのだろう。

もし、この第二段階で河野氏が妥協し、実体業務システムが変わらないと、後に続く平井デジタル相(以下、「平井氏」という)の第三段階の仕事は、「手術は成功した。しかし、患者は死んだ」という結果に終わる。一例をあげると、「ハンコは無くなったが、業務のプロセスや機構には手をつけず、基準やルール、手順、書類の数、押印欄等は今まで通り。従来のハンコがデジタル印に変わっただけ」というものだ。

■ 経営システムの三角形をデザイン

さて、私は、経営不安に陥った企業を、「経営システムの三角形(図参照)」という考え方をベースにして立て直してきた。その三角形を紹介しておく。

高収益、高成長の企業は、(1)企業価値観・戦略(思想・哲学)が明確で従業員・組織に共有化されている、(2)その戦略を実現する為の仕事の組み合わせ方(仕組み)、仕事の流れ(業務プロセス)が明確かつシンプルである、(3)その仕事をやりやすい機構(機能遂行責任分担構造:組織)になっている、更に、(4)仕事をしていく際の具体的な基準・ルール・手順が明確に定められ、社員はそれを遵守している、といった状況になっている。目には見えない(1)(2)(3)(4)の各三角形がイーコールで繋がっている。(1)(2)(3)(4)はマネジメント・テクノロジー(MT)によって築かれ、人・組織がムダ・ムリ・ムラなく一体となって仕事をしている。

しかも、実体業務システムを動かす情報システム、即ちインフォメーション・テクノロジー(IT)分野と、この情報システムによって物を動かす物流システム、即ち、ロジスティクス・テクノロジー(LT)分野が、経営インフラシステムとして機能しており、全体統合された見事な経営システムの三角形が構築されている。

私は、このような三角形を実現すべく、前述した三段階を踏みながら経営改革、システム開発に取り組んで来た。

この三角形への理解をより深めていただく為に、私の昔話をお話ししておく。

私は以前、大手チェーン小売業で情報システムと物流の両責任者をしていたので、国内外の様々な物流センターを数多く見てきた。物流センターの視察を終えると、必ず、「どうですか?」と感想を求められるので、素晴らしいセンター見学が出来た時は、いつも次のように答えていた。

「こんなに物がスッキリ、ハッキリ、クッキリ見えて、物の流れが整流化出来ている物流センターを見たのは久しぶりです。このような物流が実現出来ているのは、物流の優劣を決める情報流を担う情報システムが良く出来ているからですね。また、そのような情報システムが出来ているのは、御社の仕事(仕組み・業務プロセス)が非常に上手く組み立てられ、しかも、その仕事が最もやりやすい機構・組織になっている。更に、皆さんが、仕事をしていく際の明確な基準とルール、手順が具体的に定められ、それをしっかり守って仕事をしておられるからでしょう。それは、つまり、御社の価値観や戦略を皆さんがしっかり共有しておられるからですね。今日は物流センターを見させていただきましたが、社長様の考え方、御社の戦略も見させていただきました(笑)」と、見学のお礼の言葉を述べていた。

■ 企業の優劣、競争力はITでなくMTで決まる

MT(マネジメントテクノロジー)はITと異なり、模倣すること、お金で購入すること、その開発・運用を外部に委託することが出来ない。しかし、急速に進化するデジタルやネットワーク等のIT技術は魅力的だ。華々しく、飛び付きたくなる。それ故、MT力無き企業、MT分野の三角形が築かれていない企業が、安易にIT技術に飛び付き大火傷するということがよく起こる。そのような大火傷を負って欲しくない。その思いで、いささかクドイ内容になってしまったがお許しいただきたい。

MTリテラシーを有した人・組織をつくり、賢くデジタル化に取り組んで行かれることを願う。