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所有から使用へ:在庫への考察

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DATE
2021年03月16日

GBJアドバイザリーボードメンバー 諸江 幸祐

■ サブスクの効用

2019年の新語・流行語大賞にサブスク(サブスクリプション)がノミネートされたころ、それがイメージさせる消費サービスは、映画やエンタメソフトの定期購入、あるいは購買頻度の高い食品や飲料などの定期購入・頒布会サービスのようなものだった。いずれにしろ、定期的に買っているのだが、その都度買うのは高額になりがち。事前に一定期間の購入を契約することで割安に入手できる。それがサブスクリプション本来のサービス形態だ。

しかし2019年前後から、トヨタがKINTOサービスをスタートして個人向けカーリースサービスを「サブスク化」。アパレル大手のワールドが、バッグレンタルの「ラクサス」とファッションレンタルの「サスティナ」を矢継ぎ早に買収し、ファッション商材の二次流通に参入した。これまでなら買って手に入れていた車、カバン、ファッションを、ある期間だけ使って、次は別のモデルの車や違うデザインのバッグや服を楽しむ。

学生時代にミクロ経済学で学んだ「限界効用理論」に照らして考えてみよう。財(モノ)やサービスは、欲しいと感じ手に入れた当初、あるいは初めの1個は、とても満足度が高い(V1:量が少ない、T1:利用時間が短い=U1:効用・満足度が高い)。一方、同じモノやサービスの効用は使用に慣れて使う量が増えると、最初のころの渇望感からくる満足度は薄れてくる(V2やT2の累積効用はU2に)。結果的に追加された1個のモノやサービスで得られる満足度は、量が増えれば増えるほど減っていく。限界効用逓減の法則(MU1>MU2)である。

消費者は、一般的には、より新しいモノ・サービスを使いたがっている。常に新製品が生まれるデジタル製品や革新と陳腐化のスピードが増しているファッションは、特にその傾向が強い。自らのライフスタイルやステージも加速度を付けて変わっている。
しかし、欲しいものが上市されるたびに買っていたのでは膨大な資金が必要になる。

■ シェアリングエコノミーが後押し

そこにソリューションを提示したのがメルカリだ。誰かが使ったことのあるものだから、新品ではないが、「新しい財やサービス」が安価に手に入る。しかもある程度使うことの満足(効用)が得られたら、飽きてしまう前にまた他人に売って、実際の購買コストを下げることができる。C2Cの二次流通で年間取扱高5,000億円を突破し、いまだ急成長を続けるメルカリを支える新しい消費スタイルだ。

デジタル情報の咀嚼力があり、変化の速度が一段と増している若い世代の消費市場では、「所有する満足」よりも「所有した時点から始まる陳腐化」の方が重要なのかもしれない。新品でなくても、人が使ったものでも、その財の効用が十分であれば、使って楽しむことに抵抗感は少ない。

メルカリ成長の背景には、地球環境問題への意識高揚、その表れであるシェアリングエコノミーの台頭があるように思われる。「まだ使えるものはできるだけ使う」という意識は、環境への負荷を減らし、同時に「賢い消費」として消費者自身の新しい満足にも結び付く。企業行動としても、最近のSDGsの要請に合致しているのは当然だ。

レンタル事業:必要かどうか試してから購買判断

「まずは借りてみて試し使い、気に入ったら買っても良し、返しても良し」。サブスクが家具や家電など耐久消費財にも浸透し始めている。無印良品は、ダイニング・リビング家具などを借りて使える「月額定額サービス」を開始した。期間は最低1年だが、ライフステージに合わせて買い替えるのではなく、借りて転売の手間や廃棄の無駄を省く。気に入ったらそのまま減価した価格で買い取っても良い。

消費者向けレンタル事業の最大手、レンティオではレンタル事業の収益モデルを下記の要因に分解して分析している。旅行や入卒園式のカメラやハンディカムのようなイベント時の一時利用から、Roombaのように使ってみたいけど買ってみて遣い出が良いのか心配!といったユニークな生活用品まで、広範な高額耐久品を扱っている。

一見、最も新しい事業のように見えるシステムだが、実はウェディングドレスや成人式の晴れ着では「レンタルか購買か」という選択は昔からある。売切りの価格設定が、レンタル1回の価格の1.5~1.7倍は貸衣装業界の常識と言われている。リセールバリューは、使用者による買取か、二次流通市場での再販か? 前者なら「試し買い」、後者なら「メルカリ」と同じに仕組みだ。いずれにしろ、このフローでの流通量が増えてくれば、市場が効率化し、二次買上げ価格は高くなる。C2Cの商流を支えるのはICTの高度化だ。

■ 市場の在庫量は減少するか?

かつて、「使用するためには所有しなければならなかった」消費者が、これまでになく「所有と使用」を分離して考えるようになれば、一次流通⇒不使用・廃棄になる財の比率は減り、一次⇒二次⇒摩耗・廃棄になる比率は増える。理論的には、一次流通量は、マーケットリーダーを中心とする少量の需要により決定される。二次流通の主役は、市場の大勢を占めるフォロアー層になる。単品大量生産で成功できる品種・品目は減り、一次流通品では受注生産型が増える。

ファッション商品でも、在庫を持たず受注生産に活路を見出す製造小売業が出現しつつある。誰がリーダーで誰がフォロアーか、最初に言い当てることは困難だが、当たった商品の流通速度(Velocity)を増すことで市場に存在する在庫量を減らして、最適化することに寄与しそうだ。