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東証の市場区分とTOPIX改革とその影響

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DATE
2021年08月10日

GBJアドバイザリーボードメンバー 藤田 勉

■ 市場区分の改革を実施

現在、東証の制度改革が実施されつつある。金融庁の金融審議会の報告書は、現状の問題点として、①5つの市場区分のコンセプトが曖昧である、②上場企業の持続的な企業価値向上の動機に乏しい、③「TOPIX=東証市場一部」となっており、投資対象としての機能を備えてない、ことを挙げている*1

日本取引所グループは、傘下に東京証券取引所(以下、東証)を持つ。歴史的に、東証の現物取引所は、東証、大阪証券取引所、ナスダックジャパン、ジャスダックが統合され、形成された。取引所が合従連衡を繰り返したため、東証では、市場一部、市場二部、マザーズ、JASDAQスタンダード、JASDAQグロースの5つの市場が運営されており、上場基準もそれぞれ異なる。また、取引所間で上場企業の誘致合戦が激化したため、上場基準が緩和された。

TOPIXは、東証一部上場企業全体を構成銘柄としており、上場社数が増加するにつれ、対象社数が2009年末の1,684社から2021年7月末の2,190社に増えた。結果として、時価総額が小さく、流動性の乏しい銘柄がTOPIXに多く含まれるようになった。

そこで、2022年4月より、東証の現物市場は3区分される。プライム市場は、高い時価総額・流動性、より高いガバナンスを備え、投資家との建設的な対話を中心に据える企業を対象とする。既存の上場企業は、選択により引き続き上場が可能である。新たに上場する企業は、流通時価総額等の上場・退出基準を厳格化する。

プライム市場の基準として、流通時価総額(流通株式数×株価)100億円以上とする。流通株式数株式の定義が見直され、上場株式数から役員所有株式数、自己株式数、上場株式数の10%以上を所有する者が所有する株式数、役員以外の特別利害関係者が所有する株式式(新規上場・一部指定時のみ)を引いたものとされる。

スタンダード市場は、一定の時価総額・流動性、基本的なガバナンスを備えた企業が上場を対象とする。グロース市場は、高い成長可能性を有する一方、相対的にリスクが高い企業が上場を対象とする。

2021年7月に、東証は、新市場区分の適合状況について1次判定を行い、東証1部2,191社中、664社(30.3%)が基準を満たしていないことが明らかになった。東証上場企業全体では、3,738社のうち965社(25.8%)が満たしていない。上場基準が未達の企業は、今後、適合計画と進捗報告を行い、2次判定を受けることになる。新市場区分の上場維持基準を満たしていなかったとしても、「上場維持基準への適合に向けた計画書」を提出すれば、経過措置が適用され、希望先への移行が認められる。

 

■ TOPIXの構成銘柄の変更

日本では、年金基金管理運用独立行政法人(GPIF)がインデックス・ファンドに投資しており、また、日本銀行が上場投資信託(ETF)を購入している。GPIFと日銀の日本株保有額は合計100兆円前後である。海外の先進国では、政府系年金基金や中央銀行がこれほどまで巨額な株式投資を実施する例がない。これらは株価を押し上げるという効果はあったと見られるが、同時に、その金額が著しく大きいため、株式市場において弊害が生じつつある。

そこで、もう一つの改革として、TOPIXの構成銘柄、入れ替えルールを変更することとなった。2022年4月以降、TOPIXの構成銘柄は、主に、プライム市場から選定される見込みである。現在のTOPIXとの連続性を考慮しつつ、より流動性を重視して選定される。

TOPIXの新算出ルールは、流通時価総額100億円を目途とし、2022年4月4日より算出開始予定である。2022年4月1日時点の旧TOPIX構成銘柄について、

市場区分に関わらず、継続採用する*2。プライム市場への新規上場・市場区分変更銘柄については、新TOPIXに追加される。

ただし、流通時価総額100億円未満の銘柄について、「段階的ウエイト低減銘柄」として指定し、2022年10月以降、10段階に分けてTOPIX組入比率の逓減を開始する。指数組み入れ比率を決める浮動株比率については、政策保有株が固定株となる見込みである。改革後のTOPIXの銘柄数は1,500~1,600前後になることが考えられる。

ただし、除外される銘柄の時価総額の合計は小さいため、新旧指数はそれほど相違が生じないであろう。その結果、TOPIX改革後も、TOPIXをインデックス・ファンドのベンチマークとすることの弊害は解消できないと考えられる。

 

■ 株価指数の多様化が必要

改革後も、TOPIXは流動性の少ない多くの小型株を含むため、その弊害はほとんど解消されないであろう。そもそも、1968年に算出が開始されたTOPIXは、インデックス・ファンドのベンチマークとして設計されたわけではない。TOPIXは市場全体の株価動向を示すことが本来の目的である。よって、連続性の観点から、TOPIXの構成やそのルール自体を大きく変更することは好ましくない。インデックス・ファンドのためにTOPIXの指数構成を変更することは本末転倒であるし、その必要もない。

現在、多くのアセットオーナーのベンチマークは、国内株がTOPIX、海外(先進国)株がMSCI ACWI(除く日本)である。よって、国内株のベンチマークをTOPIXからMSCIジャパンに変更することで、この問題は概ね解決する(短期的な株価に対する影響には配慮する必要がある)。

元々、MSCIはインデックス・ファンドのベンチマークとして十分に機能するように設計されている。MSCIジャパンの銘柄数は272であり、これは東証一部2,190銘柄の12%を占めるに過ぎない。しかし、これで東証一部時価総額の85%をカバーしており、層化抽出法によって、投資収益率は市場全体との乖離が小さくするように設計されている。実際に、TOPIXとMSCIジャパンの投資収益率は、長期的には概ね同水準である。さらに、時価総額と流動性を重視して銘柄構成しているため、海外からの大型資金の売買にも対応できる。

今後、日銀がインデックス・ファンドに投資するのであれば、その指数は、TOPIXではなく、MSCIジャパン、TOPIX100、日経株価指数300など大型株のみで構成され、流動性に問題がないものを選ぶことが適切である。同様のことは、GPIFなど他のアセットオーナーにも当てはまる。これによって、流動性の乏しい小型株を大量に買うことがなくなるので、市場の歪みを最小限にできる。さらに、運用コストが低減するため、日銀にとってもメリットが大きい。

欧米では、MSCI、FTSE、S&Pの3社が互いに競争しながら、株式指数算出市場を成長させている。投資家は、日本株指数としてTOPIXに拘る必要はない。結論として、日銀などの大口投資家は、TOPIXではなく、MSCIなどベンチマークとして使われることを前提として設計された指数を採用することが適切である。これを機会に、日本でも、指数間競争が働き、欧米同様、株価指数の多様化が進むことを期待する。

 

*1  金融庁金融審議会「金融審議会市場ワーキング・グループ 市場構造専門グループ報告書
-令和時代における企業と投資家のための新たな市場に向けて-」(2019年12月27日)

*2  東京証券取引所「TOPIX算出ルールの見直しの概要」(2020年12月25日)