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動産評価会社に期待される役割
~コロナ後を見据えて~

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~コロナ後を見据えて~

DATE
2022年07月01日

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン バリュエーション
シニアマネージングディレクター 野田 慧

 

コロナ禍からようやく回復してきた企業業績だが、ここにきて長引く半導体不足、ウクライナ情勢などに伴う燃料や物価の高騰、円安などが重しとなり、再び先行き不透明感が漂っている。コロナ融資の出口戦略も課題となる中、企業に対するより一層の金融支援策の一つとして動産担保融資(ABL)が脚光を浴びている。

ABLは2005年の動産譲渡登記制度の導入以降、不動産担保や経営者保証に過度に依存しない融資手法として我が国においても推進され普及してきたが、近年の継続的な金融緩和・コロナ融資などのマクロ環境に加え、金融機関内で異動が定期的に発生すること、ABLが顧客への多様なソリューションの1手法に過ぎないことなどから、多くの金融機関ではABLに精通した担当者が不在となっているのが実態である。

しかしながら近時では、景気後退リスクが高まる中、各金融機関においてABLの重要性が再認識されている。ABLのノウハウを再蓄積すべく、担保評価のみならず初期検討⇒融資⇒回収のすべての局面において弊社を活用し、初期相談から案件組成時の後方支援(金融機関と弊社との協調融資も含む)、実行後のモニタリングサポート、回収まで一緒になって取り組むことを期待する流れも出てきている。このように金融機関と動産評価会社はこれまで以上に密接な関係を構築しており、評価会社に期待される役割がさらに高まってきている。

動産の担保取得を検討する際に最初に直面する問題の1つに、担保適格性の判断がある。しかし、後述するように動産は個別性が強く、動産毎にまた業態ごとに確認事項や留意事項が異なるため、担保適格か、また、回収が見込める(逆ザヤにならない)ものなのか判断することは、動産に関する専門性や換価経験が必要であり容易ではない。このような場面には臆せず動産評価会社を頼ることを推奨する。実績のある動産評価会社は多様な動産の換価性について知見があり、担保適格性、換価時の留意点等について適切にアドバイスができる。動産の一般担保要件の中で『適切な換価手段の確保』が明記されているように、出口の確保、つまり、金融機関自身もしくは評価(換価)会社(※)が換価可能かというのが担保適格性の判断材料の一つとなる。

※ABLが広く普及している米国では換価会社が自ら実現可能な金額で評価するというのが当たり前となっている。

ABLを取り組むにあたって動産毎にどのようなポイントがあるのか、本稿では特にABLの担保物として活用が多い動産である宝飾品・アパレル・機械設備の3つに絞って解説していく。

 

≪宝飾品≫

宝飾業(貴金属買取業は除く)は在庫回転期間が他の動産群に比して長いことが多く、運転資金が寝がちである。一方で、保有する宝飾品の素材はプラチナや金、銀など、石はダイヤモンドなど換価性が極めて高いものが多く、デザインの陳腐化などにより仮に製品として売却が困難な製品であっても素材価値として相当程度の回収が見込めることも担保として安心感があり動産担保として活用されやすい。担保価値としては簿価比の処分経費控除後処分価値(NOLV%)で50-80%程度が見込めることも珍しくない。ただし、相場の変動が大きいため、地金であれば重量情報、ダイヤであれば4C(カラット・カラー・カット・クラリティ)の情報などを基に定期的にモニタリングしていく必要がある。

また、同業他社や催事場への委託在庫や消化仕入取引も多く、場所で特定する集合動産担保の場合、対象資産の所在の特定が容易か*1、従業員による不正防止対策、単品別在庫データ管理状況などの確認が肝要である。

 

アパレル

アパレル小売業は、不動産を持たずに駅ビルやショッピングセンターへの出店を主としている企業も多く、保有資産に占める在庫の金額的重要性が高いことが多いため、中小企業~上場企業まで、動産価値に着目したファイナンスが行われている。アパレルは季節在庫であり、オフシーズン在庫やキャリー在庫など在庫負担が大きいことも要因の一つである。

ABLの場合、再評価のサイクルが年1回の企業が少なくないが、アパレル企業では季節性が強く、一時点の評価率を1年間適用し続けることは適切ではない。例えば、コートなどの冬物の評価額は秋口と春先では全く異なる。そのため、四半期ごと等より高頻度でNOLV%を洗い替えることが望ましいが、借入人の手間や費用負担を抑制するため年2~3回は机上評価とするケースも多い。アパレル業であれば、適切に評価減を実施した上での定期的な換価処分やアウトレットやオフプライスストア*2を通じた売却により適切に在庫管理している会社もあれば、売れ残り在庫を長期間にわたり倉庫にため込んでいる会社までさまざまであり、NOLV%は15~70%程度と個社毎に差が大きいといった特徴がある。

 

機械設備≫

自動車関連製造業をはじめ、多くの製造業が存在する我が国では工場にある機械設備の担保評価の需要も高い。機械設備(販売用を除く)は償却資産であるため、借入人が適用している会計上の償却年数よりも経済的耐用年数が長い場合、時価あるいは処分価値>簿価となるケースも珍しくない。例えば半導体設備、工作機械、建機、車両などでは大きな含み益があることもある。機械設備の場合は新品の商品在庫と異なり、すべてが中古の1点ものであるため、1台ごとのリストが必須である。また、減価償却が進むにつれ簿価が減少していくため、在庫と異なり、簿価比●%でモニタリングできるものではない。

担保対象資産に所有権がリース会社にあるリース資産が含まれていないか、公的機関からの補助金で購入した資産など担保に取得できない資産が含まれていないか、などの確認は重要であり、評価会社が実地調査する中で担保不適格資産が発覚するケースも多い。

このように3つの業種を見ただけでも動産毎の個別性が極めて高く、入口の段階から動産評価会社との連携が重要になる。また、弊社は評価/処分だけでなく、ファイナンス部門も擁しており、金融機関に対して上述した後方支援のほか、金融機関からのトレーニー受入実績も豊富であり、評価⇒融資⇒処分の座学に加え、OJTでの破産換価経験まで、よりリアルで総合的な経験を積むことも可能である。

米国ではABLは安全なファイナンス手法として認知され普及しており、GBJのファイナンス部門は日本国内で自らABLを正しく実行・モニタリングすることで、それを実証してきた。各金融機関と弊社がタッグを組むことで、企業が急成長期でも、再生期にあっても、動産に価値を見出すことで金融支援を行うことが一般的となる社会の実現を強く推進してきたい。

 

*1:  担保対象動産を登記する際、動産を特定する必要があり、集合動産の場合は①種類、②所在場所、③量的範囲の3点から特定することになる。

 *2:  企業が抱える余剰在庫やシーズンを過ぎた商品を様々なメーカーからセレクトし、ひとつの店舗で販売するビジネスモデルであり、小売業の余剰在庫の換価先や販売店舗を持たない卸売業の受け皿として役割を果たす。いわば余剰在庫のセレクトショップであり、自社ブランドを展開するアウトレットとは異なる。米国では広く普及しているオフプライスストア(OPS)であるが、我が国のOPSとしてはGBJとワールドのJVである「アンドブリッジ」がその中心的役割を担っている。