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未来の小売業について

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DATE
2022年07月14日

GBJアドバイザリーボードメンバー 大西 洋

 

■ 日本の将来をどう考える

長きに渡るデフレ経済に加えて、新興国の台頭、優秀な人材の海外流出など、グローバル競争において日本が置き去りにされてしまう危惧を持っている。
戦後、高度経済成長を果たし、大国と肩を並べることができているのは団塊世代の大きな功績であろう。一方で、今後の日本の将来を担う若い世代に橋渡しをしていく責任がある。
現状の環境を踏まえると、日本では従来の輸出産業を支えてきた自動車・半導体・電子部品・鉄鋼などの重厚な産業のみならず、『新しい産業』を生み出していく必要があると考えている。
その一翼を担うのが、いわゆる『生活文化産業』と『観光業』である。ともに課題となっている地方の活性化に貢献し、暮らしに根付いたアート、ファッション、カルチャー、素材、匠の技などの掘り起こしによって輸出産業としても育成していきたい。

 

■ アフターコロナへ向けて

コロナ禍によって、新たな日常への対応を迫られた企業は『サステナビリティ』『事業ポートフォリオの見直し』『DX』『サプライチェーンの最適化』など様々な戦略転換を図っている。リモート社会の到来は距離の概念を超え、地方にとってはポテンシャルとなる。また経済の基軸が、モノからデータ・知識・マーケティングなどにシフトしていくことも小売業にとっては大きな影響を与えるであろう。

 

■ 小売業の課題と方向性について

国内における総消費額には大きな変動がみられないトレンドにおいて、

1)買うつもりがないモノを買って頂く工夫
2)リアルとヴァーチャルの融合
3)想像を超える絶対的価値

を追求していくことが重要である。

またサプライチェーンの最適化に向けて、AIを用いた需要予測による機会ロスの削減や物流・在庫の改善を図っていく必要がある。小売サイドの責任としては、商品の絶対的な価値を高めることで、生産者に対して適正な対価を支払うこと=原価率を上げることもマーケットを俯瞰した視点として持ち合わせるべきであろう。

1) 買うつもりがないモノを買って頂く工夫

モノがあふれた現代において、効率性や利便性などの相対的価値の追求だけでは売れない。人の心を豊かにする本質的価値や唯一無二の価値、すなわち『絶対的な価値』の追求が必須である。その為には、市場占有率よりも、お一人おひとりのウォレットシェアを高めていく戦略への転換を迫られる。小売店においては、従来型の商品展開ではなく、顧客の関心度に応じた『新しい展開の分類』を創出していくことも考えられる( 例: SDGs17のゴール別に商品を展開 など)。

2) リアルとヴァーチャルの融合

顧客接点をリアル店舗に限定せず、様々なヴァーチャル空間メタバース等にも拡げ、膨大なデータをマーケティングで解析して戦略・施策につなげたい 。AI等、様々なテクノロジー導入を積極的に行いDXによるビジネス変革を目指すべきである 。

3) 想像を超える絶対的な価値

顧客から『感性』で選ばれる・・・顧客の潜在的なニーズに訴えかけるためには、顧客の心を動かすストーリーを紡ぎ出し、顧客と深い関係性を築く必要がある。プロダクトの独自性によって顧客との連帯感を高めていくことで 絶対的な価値を提供することができるであろう。特に顧客との対話においては、自社の魅力的なカルチャー、五感に訴えるエンターテイメント性、特定のカテゴリでの最高水準のノウハウを持っていることが大きな武器と成り得る。

 

■ デジタルトランスフォーメーション

DXは、農業革命・産業革命に次ぐ、文明の転換点である。人の仕事はロボットやAIに代替され、あらゆるモノゴトがデジタル化されるが、どのデータから価値を産み出すか考えて判断するのは『人』である。小売業においても、EC・無人店舗など新しい販売スタイルが確立し、データマーケティングによって産業も高度化していくが、『人』を中心したビジネスであることは念頭におきたい。

 

■ マーケティング重要性

経営とはマーケティング活動そのものであると考えている。社会に対して、顧客に対して付加価値を生み出す活動そのものであり、単なるリサーチ・PR・宣伝ではない。顧客の深層心理や潜在ニーズを見極めるため、顧客の購買行動の背景を探る必要があり、そのきっかけを見つけるためのN1分析がプロダクトアイデア・コミュニケーションアイデアに繋がるはずである。

 

■ 小売業と地方創生

前述のとおり、地方にある生活文化そのものを産業化するために小売業が果たす役割は大きい。羽田未来総合研究所では、日本発のラグジュアリーブランドを生み出すべき、『Japan Mastery Collection』を立ち上げた。日本の良いものが適正な価格で売れるサプライチェーンの構築に貢献していきたい。

 

■ 経営マインドについて

昭和の成功体験においては、経済合理性を優先するビジネスモデル=大量生産・大量消費が良しとされてきたが、今後、大切なのは不連続な未来への戦略である。不連続な時代においては、真・善・美といった美意識が判断の拠り所となる。

デザインとは、与えられた制限の中での判断であり、アートとは制限のない状態での自己表現であることを考慮すると、経営にもアート思考が重要であるという発想は世の中の経営の常識になりつつある。

また、イノベーションは『一人の妄想』から 『自由な場(外の環境)』を通じて生まれ、少数精鋭の仲間を増やし、意志を貫いていくことから巻き起こる。

 

おわりに

終わりに未来の小売業の発展に向けて、いくつか大切にしたい概念をあげておきたい。

  • 違い、異文化を価値と考える社会を目指す
    他者との違いが価値を持つという考え方
  • 妄想する頭、思考する
    アイデアは常識ではないところから生まれる
    素人のように発想し、玄人のように行動する
  • 直感で発想、論理で検証、哲学で跳躍
    発想の大きさ、視野の広さ
    哲学はデータに勝る
    美しいものを求める感覚
  • アートという創造の世界が持つ社会的意味
    少数派、アートが理解できるという誇り
  • NO RULES 脱ルールのカルチャー
    プロセスより自由を与える
    トップダウンではなく、各人が意思決定