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経営者は“迫りくるコスト高の嵐”に備えよ!

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DATE
2022年08月29日

GBJアドバイザリーボードメンバー 亀井 淳

GBJアドバイザリーボードメンバー 諸江 幸祐

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン 代表取締役社長(CEO 田中 健二

 

田中 昨今、様々な価格の高騰が心配されています。下図に示したように、コロナ禍前の2019年12月と比較すると原油・天然ガスなどのエネルギー費は約1.7倍、繊維原料のコットンは約2.1倍と未曾有のコスト高の状況です。またアメリカでは人手不足に起因する賃金上昇も進んでいます。日本でも、緊急事態宣言時の営業自粛のためアルバイト従業員を削減したり、海外留学生の受け入れをストップしていた影響により、今後人手不足になることが予測されています。
この先あらゆるコストが上昇し、しかも長期で続くのではと懸念されていますが、日本企業が抱える構造的な問題も含めどのように捉えられているか、経営者の目線からお話しを伺えますでしょうか。

 

亀井 今までにない値上がりです。この高騰が続く期間も、天井を打って下がるというものではないと思います。底知れない沼に向かっているという印象です。

諸江 経済学者ではありませんが、東西冷戦が止まってから物の流通は世界的に良くなりました。ブロック経済がグローバル化し、中国の生産量が増加するなど、原材料費をデフレ傾向に促す要因がありましたが、ここにきて急激に、コロナから始まったのか、米中貿易戦争から起きていることなのか分かりませんが、地政学的なリスクがもう一度ブロック化し始めているように思います。これらの要因が落ち着くまでの間は、エネルギー、原材料費といったコモディティの価格は高止まりするだろうと思います。

亀井 物価の高騰については、ロシアによるウクライナ侵攻の問題、異常気象などの天候問題、そして原油など様々な値上がりの問題があり、長期化することが予想されます。コロナは大きな流れとしては一応収束に向かっており、各国、外国人観光客の入国制限を解き始めました。ロシア・ウクライナの問題があるとはいえ今後欧米、日本を中心として経済は活発化していくでしょう。そうなった時に、今の日本の現状を考えると、コロナの影響が強かったこの2~3年間にあらゆることを削ぎ落としてしまったことの影響が大きいように思います。今後ある程度模擬的に景気がよくなった時には、信じられないくらいの人手不足が起きるのではないかと思います。そして、人手不足を背景に賃金も上げざるを得なくなるでしょう。そうなった時にそれに耐えうる企業がどのくらいあるのか、またそういう懸念をきちんと認識している企業が少なく、備えていないのが問題です。

田中 そういった懸念があることの認識すら持っていないことは、大きな問題ですね。今後日本も賃金を上げていかないといけないと思いますが、実際企業はどこまで上げられるものでしょうか?

 

亀井 内部留保とか投資に回している資金を、給料に置き換えざるを得ないと思いますね。企業全体で賃金を1%上げただけでも大きな金額になりますが、提唱の意味も含め2~3%は上げなくてはいけないと思います。それでもずいぶん思い切った金額になると思いますが、今後の物価高騰の状況を考えたら、少なくとも10%以上は上げる仕組みを考えるべきだと思います。日本国全体がどうするのか、国も企業に対してどうするのか、抜本的な改革が必要です。

諸江 内部留保を持っているのはやはり大企業に限られるわけで、上場企業でも内部留保を削ってまで出していくとなると、減益など利益がずっと横ばいになることを許容しなくてはなりません。そもそも利益率が高くないのにどうやってそれをやっていくのか、粗利をもっと膨らませるのか、コストをもっと削るのか、値上げをするのか、構造的な問題があります。いろいろな企業でお話しを聞くなかで多いのは、来年に向けてはとにかく削れるところを削るしかない、という意見です。

亀井 私はコストカットを真っ先にやってはいけないと思っています。経営者はまずコストカットから入りがちですが、企業の体力を弱めるだけだと思うんです。ムダ・ムリ・ムラのような3Mは無くす必要はありますし、ある程度のコストカットはやむを得ないと思いますが、必要以上のコストカットに走るのは一番危険なことだと思います。

諸江 アメリカではトラック運転手の年収が2,000万円になったとも聞きます。そうしないと人が集まらないそうです。アメリカの運転手は日本の運転手よりもずっと余裕をもって動いてると思いますから、それでも2,000万円払えるということは、日本はどこかで無理をしてるんだと思います。勤勉といえば勤勉ですが、それがずっと続くと思っていること自体が、企業経営として間違っていると考えなくはいけませんね。決してサステナブルではないですよね。さらに、60~80万人のエセンシャル労働力を海外からの労働輸入に頼っている日本では、1ドル=140円だと、彼らが日本で10ドル稼ぐためには時給1,400円の支払いが必要です。1ドル=100円時代とは大きく違いまね。

田中 これからコスト高の影響がますます顕在化してくると思いますが、日本の企業にはどのようなことができるでしょうか?

亀井 日本人というのは現実主義なところがあり、物品に対しては対価を払いますが、ソフトやノウハウに対しては「なぜお金を払うのか?」という感覚が非常に強いように感じます。現在のスタグフレーションを経た後に待つ人手不足・賃金上昇、そしてあらゆる環境問題、世界の経済環境を見据えて、どう考えて、どう手を打つのかというのを、今から考える手段、実行する手段、その方法論まで論じておく必要があるのではないかと思います。

諸江 亀井さんがおっしゃる通り、日本の企業経営者ってソフトに対して値段をつけないですよね。90年代から30年続いたデフレというのは、日本と欧米の間の企業行動においてすごく大きなギャップを作ったように思います。欧米、特にアメリカの企業などは、ちゃんと付加価値をとったうえでコストとバランスをとりながら成長していくという仕組みを形成していきました。ヨーロッパが環境問題に対して強くアラートを出している理由は、付加価値を認めさせるのにヨーロッパ型の経済からいうと環境配慮が適していたという側面もあると思います。一方、日本はどうしてもコスト効率の方にいってしまい、値段を上げないことが企業努力と声高にうたってきましたが、それももう限界です。価格とは別の付加価値をどうつけるかが重要ではないでしょうか。

亀井 消費財の値上げをするのは本当に難しいところですが、ある程度の値上げはせざるを得ないでしょう。お客様の反応を見ながら、また、競合がついてきてくれるのかも見極めなければいけませんが、来年小麦は更に値上がりしていくことが見込まれますし、パン、麺類、ピザなど小麦製品は販売できなくなってしまうでしょう。

諸江 単純に今の業態、業況を維持しながらこれに対応しようとすると、目いっぱいコストを削ったり、人数を減らして回していくなど負担がかかってきますから、業容を適正化するための構造改革は必要ではないかと思います。これからコロナ関連融資の返済も始まってきますから、その前に企業サイドはスピード感もって対応することも重要ですね。

田中 もうひとつのアプローチとして、DXを活用した抜本的な業務の効率化や新しいサービスの提供という方法もあるのではないですか?

諸江 確かにその打ち手も重要だと思います。特に日本の流通小売業では過去からIT化が遅れていて、デジタライゼーションの前の業務や管理基準の標準化に手間取っていたという事実があります。社内システムの刷新による処理速度の向上や保守運用コストの削減に加えて、DXの導入に併せて業務プロセスの見直しによる業務効率化を図ることでかなり効果の高い経営効率化が図れるでしょう。

亀井 更にDXの導入で、顧客へのサービス向上が図れるようになれば単なる業務効率化だけでなく、新しいサービスの付加価値を提供することで商品からサービスまで含めた価値の向上(価格のアップ)に繋がるかも知れません。