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ラグジュアリーブランドの方向性について

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DATE
2023年05月30日

GBJアドバイザリーボードメンバー 大西 洋

 

■ ラグジュアリーブランドの現状

現状、日本における海外ラグジュアリーブランドの売れ方は、異常なほど堅調に推移していますが、この状態が続くのは、3年から長くても5年程度なのではないか、と考えています。ファッション業界全体が、欧州型(旧型ラグジュアリー)のビジネスモデルに囚われ過ぎており、この状態に顧客は幻滅させられているのではないでしょうか。

ラグジュアリーブランドといっても、一括りにはできず、歴史的背景に裏打ちされた「エルメス」や「シャネル」等、独立系メゾンは、今後もモノづくりにこだわりを持ちながら続いていくでしょう。ただし、ラグジュアリーと謳えば何でも持てはやされる最盛期は長く続かないのではないかと思います。

これまでのファッション業界の流れをみても、トレンドのアップ&ダウンがありました。今のラグジュアリーブランドを俯瞰してみたときに、一番残念なのは、『衣料品・オートクチュール』のバランスがどんどん小さくなっていることで、これは考え直さなければいけないポイントであると思います。もともと衣料品中心のブランドだったはずなのに、目先の利益を追求し、今では利益全体に衣料品が占める割合が10%~20%しかないというブランドが多く、目先の売上に繋がりやすい、ハンドバッグ・スモールレザーグッズ・化粧品などがブランドを象徴するアイテムになり、更にはブームをみてチョコレート等をラインナップするブランドも見受けられます。

「ラグジュアリーブランド」の店舗も多すぎて、新しいエリア開発をしたら、地球上どこへ行っても同じような商業施設ができてしまいます。地方のスキー場の開発も進んでいますが、そこにもブランドコングロマリットの店舗が誘致されています。限られたマーケットのなかでどんどん同質化していく、これでは長続きしません。

ラグジュアリーブランドに大きな変化があったのは、1980年代初頭にLVMHグループが世界戦略を開始した頃と記憶しています。ブランド市場は巨大コングロマリットが支配するようになり、多くの資本家が追随しました。それまでのラグジュアリーブランドは「人間の内面的な情緒から発するクリエイティブで夢のあるもの」でした。それが世界戦略の中で売上・利益やブランド買収効果等のマネジメント偏重になりました。優秀なデザイナーも“クリエイティブディレクター”と称されて資本家に使われるようになり、争奪戦が繰り広げられました。この動きの中で“addicted”と呼ばれる特定ブランドの偏愛顧客も減ったように感じています。目先の売上高を挙げるためにファッションサイクルも早まり、コレクションの回数も4回、6回と細分化して増えていきました。

 

 

もう一点は価値と価格のバランスです。製造原価(下代)と販売価格(上代)のバランスが異常なほど悪いのではないでしょうか。この上代と下代の差が、いわゆる“ブランドの付加価値”と言えます。これは“ブランドの価値評価”であると言えますが、あまりにも崩れていると言わざるを得ません。

特にZ世代では、リサイクル・オフプライスストア等で欲しい物を探すことがトレンドになりつつあり、サーキュレーションエコノミーを牽引しています。一方で自分が価値を認め共感したモノや体験に対しては、消費ではなく“投資”を惜しまない世代であると感じます。この観点から、ファッションブランドは、『顧客ロイヤリティ』や『顧客に提案する絶対価値』を高めて、ブランド価値を希薄化させない戦略を堅持することが重要になってきます。画一的・汎用的なトレンド提案ではなく、“独自性”に更に磨きをかけていく必要があります。

 

■ ラグジュアリーとは何

『ラグジュアリーとは何か?』と問われたら、私は、『ブランドが提案する空間、あるいはモノ・コトに触れるだけで、豊かな感覚を覚えて、感性や感情が磨き上げられ、新しい時代へ向けた好奇心が湧いてくるモノ』であると思っています。そんな体験やモノをラグジュアリーと認めていきたいと思います。

これまでは、自分の価値観にフィットしたモノが、“普段とは違う、ちょっと上”をみたら見つかったという喜び、それを充たすものとしてラグジュアリーブランドがありました。今はといえば、結果的に価格があがり、格差社会を助長してしまっているようにも見えます。

 

 

■ ジャパン発のラグジュアリー

そんな環境下で、私は“ジャパン発のラグジュアリー”を世界に発信していきたいと考えています。多くの海外ブランドが日本の素材や技術を活用して、ブランドのモノ・コトを創り上げています。そうであるならば、オールジャパンで日本発のラグジュアリーを創り出せるのではないでしょうか。

日本の各地域には匠、職人技、技術力、職人が眠っています。このプレゼンスを高めて世界に発信することで地方に経済循環を促すことが重要です。生活文化産業が輸出の一翼を担うレベルになることが国力増強に寄与すると考えています。『よいモノをより安く』という戦略もありますが、『よいモノを適正な価格で売ることで匠の持続可能性を守る』ことが今後ますます重要になっていきます。一方でファッションは“テイスト(感性)”が非常に重要なポイントです。そのテイストに価値をつけていく必要があります。日本のクラフトマンシップ、伝統的な技術、匠の技など、まだまだ世界に通用するものがあります。衣食住いろんなものがありますが、テキスタイルだったら素材にストーリーがある、職人や作り手にストーリーがある、サプライチェーンにストーリーがあるということです。もちろん、グレードが他とは比べものにならないレベルであることが最低限です。そこにどうしても欠かせないのが感性、ファッション性、美しさです。きれいなもの、美しいものを見たときに、心が動く、すばらしい、と感動する、それが必須です。

これからは単に煌びやかなラグジュアリーブランドが縮小し、表面的な華やかさだけではない、本質的な豊かさを表現できるジャパンラグジュアリーの時代がくると信じています。

併せて、モノ・コトへの『美意識』のようなものが極めて大切になります。地方にはたくさんいい素材があるので、それを使っていくことで地方が活性化されます。社会課題につながるといえばサステナブルファッションを連想されがちですが、そうなると、安くて無駄がない合理的なものの話になってしまいます。それだけではなく、ラグジュアリー領域では、ある程度、一定の感性を超えたものを作っていきたいと思っています。例えばデニム素材は海外のラグジュアリーブランド向けに約30億円輸出されていますが製品の販売価格に占める原材料費のシェアはわずか10%程度です。素材メーカー、デザイナー、クリエイター、パタンナーなどオールジャパンで取り組めばもっと日本国内の“作り手”で経済循環するでしょう。

今後のラグジュアリーブランドは、『単なる高級品』ではなく、『文化と創造性に秀でたモノ・コトが混ざり合う市場』になることを望んでいます。歴史背景を大切にしながら、本物・本質・クリエーションを重視し、顧客に“夢”を与えられるジャパンラグジュアリーを発信していきたいと考えています。