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2023年の振り返りと2024年の展望
~新たな担保制度を踏まえて~

トピックス

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~新たな担保制度を踏まえて~

DATE
2024年02月15日

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン
代表取締役社長 堀内 秀晃

 

2024年は元日に能登半島沖地震が発生し、甚大な被害を及ぼした。また、翌2日には羽田空港で大事故が発生し、波乱の幕開けとなった。今般の災害や事故でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げる。

本年最初のトピックスであるので、弊社を取り巻く経済・金融環境について個人的に昨年を振り返り、本年を展望してみたい。尚、本稿における意見、コメント等は全て筆者の個人的なものであることを申し添える。

2023振り返り

2023年は、コロナの影響が残っている状況で始まったが、以前の緊急事態宣言のような外出規制や飲食の規制は薄れつつあった。接待も少人数であれば、余り制限なく行われていたと記憶している。5月のゴールデンウィークには観光地に人出も戻ってきて、5月8日にコロナ感染症の感染症法上の位置づけが5類感染症に移行となったことから、経済活動がコロナ前に戻っていく方向となった。特にコロナ禍の影響を直接的に被った飲食、宿泊施設、交通機関等の中には復活を遂げるところがでてきて、間接的影響を受けた小売業の中にも、業績の改善を見せるところが多くみられた。特にコロナ禍では苦戦を強いられた大手百貨店は復活を遂げた。一方で、地方百貨店の中にはコロナ禍に耐え切れず、閉店に追い込まれるところもあり、明暗を分けるような動きになった。

私的整理、法的整理の世界に目を転じてみると、従来から利用が活発な中小企業活性化協議会や事業再生ADRに加え、一昨年に成立した中小企業版私的整理ガイドラインを活用した再生、廃業案件も徐々に件数が積み上がってきた。様々な準則型私的整理の活用が進む中で、法的整理では、相応の規模の民事再生、破産案件があり、会社更生事件もあった。これは、各業界で優勝劣敗が鮮明化したこと、後継者不在の企業に決着をつける時期が来ているともいえる。

また、中小企業主体に、コロナ禍で実施された所謂ゼロゼロ融資の据置期間が経過し、約定弁済が開始されることになったことに伴い、問題が表面化するケースがでてきた。

コロナ明けの経済

2023年は日経平均株価が上昇し、2024年もこのトレンドが継続しており、上場企業の業績も好転したので、日本経済の数値が改善しているようにみえるが、これは一部の大企業における傾向で、中堅中小企業には別の景色が広がっているのではなかろうか。戦争、紛争、円安等による原料価格の高騰、慢性的人手不足等から全国の倒産件数は前年対比増加しており、時には大企業の法的整理も散見されるようになった。中小企業では、ゼロゼロ融資の弁済開始に伴う資金繰り負担が一つの要因となっている。コロナ期間中はゼロゼロ融資を実行したり、既存融資の継続に同条件で応じていたりした金融機関が、昨年から新規融資に際して在庫担保を取得するようになるケースがでてきて、弊社においても、担保評価のニーズが増えてきている。一方で、中堅、中小企業の業績悪化に伴う私的整理、法的整理の件数も増加しているので、これらに伴う資産の評価(財産評定目的、別除権評価目的)といった疎明資料目的の評価案件も増加傾向にある。

担保融資へのニーズが高まってきている中で、動産担保融資に加えて、売掛債権担保融資も有効であるが、留意すべき点がある。それは、公租公課の滞納、繰り延べである。これらの債務は、繰り延べは可能であっても、破産・清算しない限りは減免の対象とはならないので、公租公課の滞納があると再生自体が困難になる大きな要因となる。公租公課の支払債務は民事再生では止められないので、これを一旦、止めることを主たる目的として会社更生を利用するケースがあるくらいだ。また、コロナに際して、公租公課の繰り延べを認める施策が打ち出され、これを利用した企業も多いが、これらの債務は納付期限が延長されたわけではなく、延滞しているが繰り延べ期間中は差し押さえ等の回収行為がなされないという意味である。従って、繰り延べを認めてもらえても、滞納が解消したわけではないので、後に、売掛債権に譲渡担保を設定して資金調達を行おうとしても、滞納が譲渡担保設定前であれば、公租公課の債権者から譲渡担保設定後に売掛債権や口座を差し押さえられると、公租公課が先順位となってしまい、資金調達の妨げとなることは借入人となる企業には余り知られていない。公租公課を滞納している借入人に売掛債権や在庫に譲渡担保を設定させて融資を行おうとするのであれば、当該融資代わり金で公租公課の滞納を解消しないと第一順位の与信にはならない点には担保権者となる金融機関は留意する必要がある。

こういった懸念に対して、在庫の買取ファイナンスが有効である。在庫を活用した資金調達を行うニーズのある卸売業者、小売業者に対して、担保融資ではなく、対象在庫を弊社で買い取る形で資金供給を行うものである。この場合、当然ながら、在庫の所有権は弊社に移転される代わりに、当該企業側は利息の支払義務や元本の返済義務を免れるというメリットがある上に、弊社が当該企業の販売チャネルを利用して、買い取った在庫を換価していく場合、弊社が買取金額相当額を回収した余剰分は企業側とシェアすることが一般的である。または、最初からシェアする場合は、シェアの比率が最初は弊社が多く取り、回収が進むにつれて、当該企業側の取り分が増加していくストラクチャーとしているので、当該企業としては、在庫を弊社に販売した時点で、ダウンサイドをヘッジすることができ、弊社で上手く販売出来れば、アップサイドを享受することも可能である。この手法が柔軟な点は、企業の資金ニーズ以外に、滞留在庫の換価ニーズ、財務上の今期中の損失計上ニーズ等、様々なニーズに対応できる点にある。

新たな担保制度と事業成長担保権

現在、法務省が主催する法制審議会担保法制部会で動産を対象とする担保法制について議論がなされており、令和4年12月には中間試案が公表された。占有改定と譲渡登記の優先関係や動産の特定の手法等ABLに関する部分もあるので、動産担保融資を行う金融機関としては興味深く動向を注視して行く必要がある。

もう一つの動きが、金融庁が主催する金融審議会のワーキンググループで令和4年から令和5年にかけて議論された事業成長担保権(仮称)という全資産を担保対象とする全く新しい担保法制である。令和5年12月には「事業性に着目した融資の推進に関する業務の基本方針について」が閣議決定され、金融庁を中心に、事業成長担保権(仮称)を含む事業性融資推進法案(仮称)の令和6年通常国会提出を目指すこととなった。なお、法案については、事業成長担保権が中核にはなるが、その他の制度や機能についても追加されるようである。この新たな担保制度の導入により、暖簾が担保となることで、企業価値の担保化が可能となる。従来より、LBOファイナンスでは企業価値をベースにした与信検討を行っていたが担保価値は資産価値ベースでしか把握できなかった。新制度で担保価値が企業価値ベースになることになる。また、全資産担保融資と株主資本といった資金調達構造の単純化が図られることで、債務者は幹事行との交渉が主となり、交渉の効率化が図られることが期待される。LBOファイナンスやプロジェクトファイナンスといった従来から全資産担保をベースにしていたファイナンスでの活用に加えて、中堅、中小企業向け融資やベンチャーデットでの利用も期待されているので、審議状況を注意深くフォローしていく必要がある。

2024年の展望

2024年は日本の経済が本格的に回復できるかどうかという点で重要な年になる可能性が高い。

一方で、物価上昇に伴う原料高が経営を圧迫し、賃金の上昇圧力も今後強まってくるであろう。これに対応できない中堅、中小企業の中には有能な人材を獲得できず、人手不足も相まって行き詰まるところが多くなっていく可能性がある。経営者の高齢化に伴う事業承継の問題もより顕在化してくるかもしれない。

大企業では、従来は見逃してもらえたコンプライアンス違反も摘発されるようになり、場合によっては工場の生産停止、リコールといった深刻な状況に追い込まれることもある。企業のガバナンスが問われることが多くなっていくので、こういったことへの対応コストの増加が見込まれる。食品、衣料品等の廃棄に対するSDGsの観点からの規制強化の流れもあるので、余れば捨てるという従来の手法が通用しなくなる。AI等を駆使した正確な需要予測で廃棄品を減らす努力を求められる一方で、余った物を廃棄しないで処分する方法の導入も求められるであろう。何れにせよ、不断の企業努力が求められることになる。

金融環境について見てみると、金利については、未だに急激な上昇は認められないが、今までのようにマイナス金利が容認され続ける環境ではなくなってきている。今後、金利のある世界になってくると、中堅・中所企業の業績、資金繰りの観点からは支払金利の増加を通じて、ネガティブな影響が出てくることも考えられる。また、中堅・中小企業の業績悪化や倒産の増加が顕著になると、貸倒引当金の積み増しが必要となり、金融機関の融資姿勢が慎重になる可能性がある。この機会に従来の無担保金融に対して担保金融を見直してみてはどうだろうか。不動産だけではなく、様々な債権、在庫、機械設備といった動産、その他の無形資産を担保として活用できる可能性がある。

前記の新たな担保制度の活用も視野に入れて、サポートできる企業を金融面で支援していくことが日本の景気下支えの観点から金融機関の重要な役割の一つになっていくと思われるので、弊社としても、金融機関と連携してこういった動きをサポートしていく一年としたい。