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データドリブンとKKDの融合
– 客観性と現場力を兼ね備えた意思決定へ –

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– 客観性と現場力を兼ね備えた意思決定へ –

DATE
2025年06月10日

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン バリュエーション

ディレクター 商 偉剛

 

はじめに

急激な市場変化と不確実性が高まる現代のビジネス環境において、企業が持続的に成長を遂げるには、迅速かつ的確な意思決定が不可欠である。このような背景のもと、「データドリブン経営(Data Driven Management)」は単なる一時的な潮流ではなく、経営の中核を成す考え方として確固たる地位を築きつつある。

テクノロジーの進展に伴い、企業内外で取得可能なデータは爆発的に増加しており、その利活用こそが競争力の源泉となっている。一方で、現場で蓄積された知見や経験に基づく「KKD(経験・勘・度胸)」も、依然として重要な意思決定手法である。特に変化が激しく情報が限定される局面では、KKDに裏打ちされた迅速かつ柔軟な判断が有効である場合が多く見られる。

このように、「データドリブン」と「KKD」は、対立するものではなく、相互補完的な関係にある。当社(GBJ)では、前者を”サイエンス(Science)”、後者を”アート(Art)”と位置づけ、両者を融合したハイブリッド型の意思決定モデルを推奨している。本稿では、その意義と実践方法について解説する。

 

データドリブンとKKDの本質的な違いと相互補完性

データドリブンとは、定量データに基づいて意思決定を行う手法であり、透明性・再現性・論理性を重視する「FACTベース」のアプローチである。これにより属人的判断を排し、組織的に一貫性のある行動が可能となる。

一方、KKDは、日本企業に根付く現場主義や職人文化に由来するもので、定量的な裏付けを伴わずとも経験と直観により即時の判断を下す手法である。過去のデータが少ない新規事業の立ち上げや、市場の変化が速く・リアルタイムでの判断が求められる場合など、柔軟かつ関係重視の意思決定を可能とし、現場レベルでの実行力に寄与している。

両者の違いと補完性を明示するため、以下に比較を示す。

データドリブンは定性的情報の扱いに限界がある一方、KKDは根拠不明瞭かつ検証困難であるという課題を抱える。ゆえに、私たちGBJではKKDを「アート」、それを裏づけるデータ分析を「サイエンス」と捉え、両者の統合による意思決定の高度化を提唱している。現場の感覚にファクト(FACT)を組み合わせることで、感覚の偏りを補正しつつ、より建設的で論理的な議論を促進することが可能になる。たとえば、「一次データ分析で市場の全体像を把握し、営業担当者の経験から顧客ニーズを特定する」や、「過去のデータから売上予測モデルを作成し、経営者の直感で最終的な意思決定を行う」ことが「ハイブリッド型の意思決定モデル」の好例である。

実例雑貨小売業における融合型意思決定

GBJが支援したある雑貨小売業では、業績悪化の要因について営業担当者が「固定客の流出」と認識していた。だが、販売データの精緻な分析により、実際には低単価顧客の離脱が主因であることが判明した。

同社では顧客データベースが未整備であったため、購入頻度などによるロイヤルティ分析は不可能であったが、仮に「客単価の低さ=粘着度の低さ」と定義した場合、営業担当者が想定していた「固定客の流出」ではなく、「一見客やライトユーザーの減少」が実態に近いと推察される。

この分析を踏まえると、優先すべき打ち手は「既存顧客の定着」ではなく、「新規顧客層の獲得」や「低単価層の客単価向上施策」に焦点を当てた戦略の再構築であるべきと導かれた。

 

データリテラシー向上の意義 感性を補完し、感度を高める

ビジネスにおいて、事実(FACT)に基づく意思決定を強化・定着させるためには、組織全体のデータリテラシーの底上げが不可欠である。データリテラシーとは、単にデータを扱う能力ではなく、「読解力」「表現力」「活用力」という三つのスキルから構成される複合的な素養である。

A) データの読解力:データからインサイトを引き出す力

データを正しく読み解く力は、FACTベース思考の出発点である。
たとえば、日本の2025年における年収データ(令和5年分 民間給与実態統計調査)を見てみよう。

▪ 平均年収値:約460万円
▪ 年収中央値:約407万円

ここで注目すべきは、「平均値」と「中央値」の違いである。平均値は一部の高所得層によって押し上げられる傾向があり、実態より高く見える可能性がある。一方で、中央値は外れ値の影響を受けにくく、「典型的な水準」をより正確に反映する。

このように、データの性質を理解し、目的に応じた適切な指標を選択することが、真のインサイトを得るためには欠かせない。

B) データの表現力:メッセージ性を持って伝える力

データの分析結果を、どのように可視化し伝達するかも極めて重要である。伝えたいメッセージと可視化手法の整合性が取れているかによって、意思決定者の理解や納得度は大きく変わる。

たとえば、以下のような使い分けが有効である。

▪ 時系列変化:横グラフまたは折れ線グラフ
▪ 構成比 : パイチャート・積み上げ棒グラフ

可視化とは単なる「見た目」ではなく、データに込められた意味や意図を明確に伝える表現技術である。

C) データの活用力:ビジネスに応用可能なヒントを導く力

データの真の価値は、単に読み解きや報告にとどまらず、それを具体的な施策として実行に移す力にある。すなわち、「誰に」「どのような施策を講じれば効果的か」といった示唆へとデータを変換し、実際のビジネスアクションに結び付けることが求められる。

たとえば、一見無造作に見える全体データであっても、性別や年代といった属性でセグメント分析を行うことで、明確な傾向が浮かび上がる場合がある。多角的かつ深層的にデータを分析することにより、「誰に」「どのようなアプローチが最適か」といった実践的なヒントを導き出し、現場で活用可能な施策へと昇華させることが可能となる。

 

■ 分析基盤の構築

実用的な分析基盤の構築は、データリテラシーの向上と相乗効果を生み出し、組織におけるデータドリブン文化の定着に大きく寄与するものである。以下に、効果的な分析基盤を構築するための重要な要素を示す。

A) データの収集と統合

組織全体でデータを活用するためには、「データの一元管理」が不可欠である。販売、仕入、在庫、経費といった各種社内データを統合的に管理することで、以下のような効果が期待できる。

データ品質の維持と一貫性の確保
データを最大限に活用するには、重複や欠損などの修正が不可欠である。スキーマ化を通じて分析に適した形式へと整えることで、信頼性の高いデータセットを継続的に提供できる。また、定期的なデータクレンジングの実施により、長期的にデータ品質を維持し、分析結果の正確性を担保することが可能となる。

効率的なデータアクセスと分析環境の整備
必要なデータに迅速かつ確実にアクセスできる環境は、業務効率の向上と迅速な意思決定を支える基盤となる。データの収集から統合に至るプロセスを最適化することにより、組織全体のパフォーマンスが向上し、競争力の強化にもつながる。さらに、BIツール等による可視化の活用により、複雑なデータを直感的に把握することができ、誰もがデータに基づいた判断を行える環境が実現する。

部門間連携の強化と透明性の向上
統一されたデータを前提とした意思決定は、部門間の連携を促進し、業務プロセスの透明性を高める効果がある。会議やディスカッションの場では、データに基づいて課題の根本原因を特定し、具体的な改善策を迅速に議論することが可能となる。このようなデータドリブンなアプローチにより、組織全体で建設的な議論が行われ、一体感の醸成が期待される。

B) 分析ツールの選定

整備されたデータから有用なインサイトを引き出すためには、適切な分析ツールの選定が不可欠である。従来から広く活用されてきた表計算ソフト(例:Excel)に加え、近年ではBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの認知度および利用が急速に高まっている。なお、ここで言及する「表計算ソフト」とは、Power QueryやPower Pivotといった機能を備えたモダンExcelではなく、従来型の手動操作を中心とするExcelを指す。

BIツールは、大規模かつ複雑なデータ分析、さらには迅速な経営判断を要する場面において特に有効である。一方、Excelは小規模なデータ分析や日常業務での柔軟な対応に適しており、即応性や自由度の高さが強みである。近年、「脱Excel」という言葉がDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈で取り沙汰されることがあるが、これはExcelというツールそのものに問題があるわけではない。実際には、非効率な運用方法や属人的な管理体制に起因するケースが多いのが実情である。

したがって、GBJでは、ユーザーのデータリテラシーや業務内容(取り扱うデータ量、分析の目的、アウトプット要件など)に応じて、適切なツールの選定、あるいは複数ツールの併用を推奨している。特に、Microsoft社が提供するPower BIを中心に据えた運用体制を構築することで、共通のデータセットを基盤に、ExcelとBIツールの利点を相互補完的に活かす「いいとこ取り」が可能となる。これは極めて効果的かつ現実的なアプローチであり、強く推奨されるものである。

 

■ おわりに

現代の企業経営は、環境変化のスピードと複雑性の高まりに直面している。その中で、KKDに基づく直感的な判断と、データに裏打ちされた客観的な意思決定を融合することが、意思決定の質とスピードを両立させる鍵となっている。このような意思決定の高度化を実現するためには、組織全体におけるデータ活用基盤の整備と、それを有効に運用できる人材の育成が不可欠である。GBJでは、これらの要件を包括的に支援するため、以下の三位一体のサービスを提供している。

分析プラットフォームの構築支援

動産評価において国内最大級の実績を有するファームとしての知見と技術力を活かし、業種・業態を問わず、実用性とスケーラビリティを兼ね備えた分析プラットフォームの構築を支援している。現場の業務課題と経営層の意思決定ニーズの双方を的確に把握し、柔軟かつ拡張性の高いデータアーキテクチャの設計・実装を行うことで、組織全体におけるデータ利活用を促進し、継続的な業務改善と意思決定の質的向上を実現する。

分析ツールの選定

経験豊富なデータアナリストが、クライアントごとに異なる業務環境や組織課題、意思決定プロセスを丁寧に把握した上で、最適な分析ツールの選定および導入支援を行う。既存の業務フローやITインフラとの整合性を考慮しつつ、BIツールやExcelなどの選択肢の中から、実務において最も効果的なツールを提案することで、スムーズな現場適用と定着を支援する。

ユーザートレーニングの提供

多様な業界および業務領域におけるデータアナリスト育成の豊富な実績を基盤とし、従業員一人ひとりのデータリテラシー向上を目的とした教育プログラムを設計・実施する。導入後の現場定着やユーザートレーニングに至るまでを一貫して支援することで、データドリブンな業務改革の継続的な推進を可能にする。

 

これらのサービスを通じて、GBJはクライアント企業の「KKDを融合したデータドリブン組織」への進化を強力にサポートし、意思決定における質の向上とスピードの両立を実現する。ツール・基盤・人材の三位一体による支援を通じて、持続可能なデータ活用文化の定着を推進している。